『詩集 誰もいない闘技場にベルが鳴る』を読んで

 後藤大祐『詩集 誰もいない闘技場にベルが鳴る』(土曜美術社出版販売)を読む。後藤は1979年生まれの若い詩人。これが最初の詩集のようだ。あとがきに相当する「現代詩について。」にこうある。

 就職活動中、「詩を専攻? じゃあ、詩をここで作ってみて」と面接官に言われて、とっさに生まれた「現代人のほとんどは」(今回は収録せず)、は原始人には腰痛がない、というやつ。人生初めての自分の詩だった。ウホウホ身ぶりも加えたら、相当ウケた。それがきっかけだった。(……)昨年、「死体をタクシーに乗せて、」を発表した。賞を頂いた。

 若者の軽い詩。リズミカルで発想が跳んでいる。その「死体をタクシーに乗せて、」の冒頭部分。

死体をタクシーに乗せて
祭りのようにすすむ
はずむ街を
ネオン輝く黒いセダンが通る


キミがいい気分だから
ボクもまじ最高
肩に手をまわせば、ほら
口蓋骨から、ピューと笛がこぼれる


街に、地面から、昼にしみ込んだ熱が立ちのぼる
地下道の入り口や出口、ビルディングの谷間や
ナイトクラブの階段から


ある夜には、戦争に酔った青い若者たちが
交差点を占拠し、ニュースの見出しに切りとられた
ある夜には、ペットショップの前に立ち止まった
女装趣味者ウォルトに首相の甥が声をかけた


いつも通り、混雑する高架下のロード
タクシーが急ブレーキを踏んだ
車線変更で割り込んだハイヤーがクラクション
はじけるシャンパン、道路に落ちたコルクをひろうのは赤い鼻のボーイ
ほら、キミがほほえむ


死ぬほど楽しい、キミもそう?
何があっても、ふたりなら平気
キミのむきだしの鎖骨をつつく、木製バットの感触
キミはほんとうにかわいい、ほんとだよ
ほんとだって 笑
(後略)

 本書は「I」と「II」に分けられている。上記の詩は「I」から。おそらく「II」が初期詩篇で「I」が最近作なのではないか。最近作の方が圧倒的に洗練されている。