コバヤシ画廊の荻原正人展を見る


 東京銀座の小林画廊で荻原正人展が開かれている(2月27日まで)。荻原は1953年東京生まれ、1979年東京芸術大学鋳金科を卒業し、1981年同大学大学院を修了している。
 今回の展示は3面の壁に同一の大きさの赤い平面が規則正しく並べられている。これは何なのか。作家とギャラリーの小林さんに話を伺った。右側の壁面が2013年、正面が2014年、左側が2015年の新聞だという。それぞれ3月11日から4月9日までの30日間の朝日新聞の第1面を塗ったもの。上部の欄外の日付と、3.11に関する写真だけを除いて赤く塗りつぶしている。最初に鉛筆で黒く塗り、それを3回重ね(3層塗り)、ついで赤のクレパスで2回(2層)塗っている。すると3.11に関する写真だけが塗り残される。この3年間の3月11日から30日間に、朝日新聞の第1面に取り上げられた3.11に関する写真の量が一目瞭然に分かる。それがどんなに少ないかが分かる。荻原はこの作業を震災の当日の新聞から行ってきた。前回2012年の展示では、2011年と2012年の3月11日から90日間、新聞を塗りつぶした作品を展示した。それがDM葉書の写真だが、ほとんど毎日3.11に関する写真が掲載されているのが分かる。




   (2013年の一部)
 あの震災をテーマに多くの作家たちが制作しているのを見てきた。写真が多かったが、ほとんどが声高に津波原発事故を告発している。それらに比べると、荻原の仕事は極めてストイック・禁欲的で震災についてやっと聞きとれるかどうかという微かな告発にしか見えない。それがこんな風に展示されると、いっぺんに鋭い告発に変わっている。写真の展示がカミソリの切れ味を示しているとすれば、荻原の展示はナタの切れ味だ。優れた展示だと思う。将来、3.11に関する大きな展覧会が企画されたら荻原の作品は外すことができないだろう。多くの人にみてほしい。
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荻原正人展
2016年2月22日(月)〜2月27日(土)
11:30〜19:00(最終日17:00まで)
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コバヤシ画廊
東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1F
電話03-3561-0515
http://www.gallerykobayashi.jp/