『脳には妙なクセがある』を読む

 池谷裕二『脳には妙なクセがある』(扶桑社新書)を読む。巻末に欧文の参考文献が掲載されていて、その数が207もある。池谷は脳に関する膨大な学術論文を読み込んでそれらを簡潔に紹介している。逆に言えば池谷が綴っている脳に関する奇妙なトピックはいずれも学術論文としての裏付けがあるということになる。だから間違いはないということにはならないけれど。
 そのいくつかを紹介してみる。人差し指が薬指より短い人は株で儲ける、とある。指の長さは胎生期に浴びたテストステロンの量を反映し、誕生前にテストステロンに多く曝されると、迅速な判断力や行動力が優れる傾向があり、投資家として成功する確率が高いという。
 ……対談中に相手がコーヒーを飲んだらこちらもカップに手を伸ばしたり、相手が頬づえをついたらこちらも頬づえをついたりなど、さりげなく相手の行動を真似すると、相手からの好感度が増す。サルでも自分の真似をしてくれる人を好きなになるという。
 睡眠の効果を説くくだりで、発想力には「王道」があるという。それは4つのステップからなる。
  1.課題に直面する
  2.課題を放置することを決断する
  3.休止期間を置く
  4.解決策をふと思いつく
 このうち特にステップ3が重要だと説く。これは「怠惰思考」と呼ばれる行為で、当面の問題を放置することだ。つまり創造のためには相応の熟成期間が必須なのだという。とりあえず一度目を通してから放置する。テストの結果、REM睡眠と呼ばれる浅い眠りが多い人ほど成績が高かった。
 またそれに関連した実験で、睡眠の効果を最大限に利用するためには、起床後の朝ではなく、睡眠直前の夜に習得した方が良いという。
 こんなふうに脳に関するたくさんのクセを紹介している。350ページもあるが、けっこう楽しみながらさっさっと読むことができた。おもしろくまた有益な読書だと保証する。池谷雄二の本は何冊か読んできたが、いずれもおもしろかった。贔屓にしている著者の一人だ。


脳には妙なクセがある (扶桑社新書)

脳には妙なクセがある (扶桑社新書)