深沢七郎『人間滅亡的人生案内』を読む

 深沢七郎『人間滅亡的人生案内』(河出文庫)を読む。単行本初版が1971年、雑誌『話の特集』の1969年から1971年にかけて掲載された読者からの人生相談に深沢が答えたもの。ひと口で言ってつまらなかった。深沢の変った人生相談、奇書として話題にはなっていていつか読みたいと思っていた。なぜつまらないと断言できるのか、それは朝日新聞連載の「悩みのるつぼ」の車谷長吉岡田斗司夫上野千鶴子らの回答を知っているからだ。とくに深沢の回答は車谷に比べられるかもしれない。上野や岡田の回答は知的なセンスが光るけれど、車谷のそれは人間的な異色さの反映で、この点に関しては深沢の及ぶところではない。もうひとつの点は、読者層の問題だろう。『話の特集』の読者は20歳前後が多いらしく相談者らの年齢もそのあたりだ。すると他愛のない相談がさも深刻そうに寄せられることになる。深沢があとがきで書いている。

話の特集』の読者は若い人達が多いらしく、そのほとんどが20歳前後の人達に限られていた。勿論、身の上相談だから一般の新聞や雑誌にのっている相談――嫁と姑とか、妻子のある人との恋愛問題とかのような悩みはほとんどなく、20歳前後の若い人達の問題は案外、日常生活のつまらなさ、退屈などについて訴える――回答を聞くというよりも、むしろ、書いて、読んでもらいたいというようなものが多かった。つまり、生活のトラブルというより生活のムードというものを意義づけたい――そんな悩みが多かった。

 「悩みのるつぼ」では、教え子に恋をしたという高校教師に、車谷が教え子と寝て仕事も家庭も棒に振れ、それから本当の人生が始まると答えたり、性欲が強すぎて困っているという中学生に、上野が熟女にお願いしまくれば10人に1人くらい相手になってくれると回答していた。それらの応答を知った後では、深沢の奇書がつまらなく見えてしまうのも仕方ないだろう。


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