岡田斗司夫『オタクの息子に悩んでます』を読む

 岡田斗司夫『オタクの息子に悩んでます』(幻冬舎新書)を読む。これは朝日新聞に連載している人生相談「悩みのるつぼ」から岡田が担当した分をまとめたものだ。とは言ってもただまとめたのではなく、朝日新聞の編集部から渡された相談の手紙に対してどう答えるか、その考えた過程まで公開している。いつも岡田の回答は見事だと思っていたが、ここまで考えて答えていたのか。
 まず他の回答者との違いをどう出すかが明かされる。

 この「悩みのるつぼ」というシリーズは毎週土曜日掲載で、4人の回答者が1週ごとに答える形式です。
 車谷長吉さんという純文学の作家さんと、経済学者の金子勝さん、上野千鶴子さんってフェミニストの東大教授。(2012年現在は車谷さんがやめられて、三輪明宏さんが加わっています。また、上野さんは2011年3月いっぱいで東大を退職しています。)
 連載開始時に、僕のほか、この3人が担当すると言われました。/だから、彼らをすごく意識しました。とりあえず彼らより面白いことを書きたい。いまだにそうなんですよ。毎回毎回、「あいつらより面白いこと」を自分のテーマにしています。/4人それぞれ、得手不得手というものがあるはずです。
 まず、文章力では車谷さんに絶対かなわない。なんせ向こうは純文学作家ですから。/読んでる人の心をグワッと動かすという技術で、車谷さんにはかないません。だいたい、人生の深さでも勝てるはずがない。僕、あんなにつらい人生送ってませんし。ただし、かなりの確率で精神論、つまり実用性の低いアドバイスを返してくるだろうと予想を立てました。
 金子さんは合理的かつ実行可能なアドバイスをするはず。すると、発想の飛躍には限界がある。「面白さ」という部分なら、僕にも勝ち目があるに違いない。
 視点とか切り口の鮮やかさでは、上野さんに勝てるはずがない。フェミニストとして東京大学で教授をやって、数々の論敵をバンバンバンバン打ち負かしている、世にも嫌なバアさんです。

 女性の価値について具体的に数値化しているところなんかびっくりだった。

 あらゆる女には絶対に値段がつきます。/ホームレスのおじいちゃんは、ホームレスのおばあちゃんを食パン1枚でちゃんと買っています。/つまり、どんな女の人でも絶対に食パン1枚分の価値はあるんです。
 僕が昔、天王寺夕陽丘予備校に通っていた時に見かけたホームレス同士の売春では、一番安いホームレスのおばあちゃんの値段は、うどん一玉でした。/なので、食パン1枚、うどん一玉あたりが女の人とセックスするのに必要な最低経費と考えたわけです。/それ以下、つまりお金をもらってもやりたくない女の人というのはありえない。実際に、風俗業界に行くと、どんな女でも絶対に値段がつくというのはプロの業界人だったら誰でも知っています。

 そうか、ホームレスだって欲求不満になるんだ!
 岡田が書いている。「なぜ、悩みはるつぼ化するのか。/人間、なぜ悩むのか。//悩みとは「複数の問題がこんがらがった状態」と、僕は定義しています。」

 問題に手が付けられなくなった時=「悩みのるつぼ」が発生している時に、最初にやるべきことは、頭の中だけで考えるのをやめること。/ノートに書き出してみたり、他人に相談することが最優先です。/なので実は、相談者の大半は、悩みを書いている段階で、かなり解決しているんじゃないかと思います。「悩みのるつぼ」をやっている僕が言うのもヘンなんですけどね。
 僕自身も、よく経験するんですよ。/人に何か悩みを相談しようとして話しているうちに気が済んでしまった、ということが。/「悩みを聞いてもらったから心が軽くなったよ」とか、「スッとしたよ」というのもあるんですけど、実はそれよりも、人にわかるように整理した段階で悩みの大半というのは解決してしまうんです。
 で、解決しない部分というのは、本当にもともと解決不可能なものだけなんです。

 岡田が答えた回答例が多く収録されており、それらを読むだけでも面白い。岡田斗司夫ってオタク関係だけの人じゃなかったんだ。
 いや、とてもためになる本だった。実用度90%くらいはあるだろう。100%でないのは、悩んだことがない人間には無用だから。


 面白くて以前紹介した岡田斗司夫が回答した「悩みのるつぼ」
岡田斗司夫が教える男の見分け方(2014年4月9日)
「悩みのるつぼ」の相談がおもしろい(2013年8月26日)
岡田斗司夫の男女のランク付けが面白い(2011年4月14日)
「悩みのるつぼ」でどうしたらモテるかを答える岡田斗司夫(2010年1月26日)
岡田斗司夫の回答が秀逸(2009年8月29日)


オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)