山田昌弘『悩める日本人』を読む

 山田昌弘『悩める日本人』(ディスカヴァー携書)を読む。副題が「“人生案内”に見る現代社会の姿」というもので、読売新聞に大正3年から続いている「人生案内」という人生相談を回答者の一人である山田が分析している。山田は家族社会学が専門の社会学者で、2009年から同欄の回答者を務めている。この人生相談は毎日掲載されていて、しかも長期間にわたって続いているので日本社会のデータベースとして社会学者の分析の対象になっているという。
 「女装する夫にショック」、「父の死を夫がSNSに投稿」、「70代男性、年下の彼に未練」、「息子は同性愛者なのか」、「妻が不倫、謝罪されたが苦しい」、「60代息子が主夫 情けない」、「30代息子 教授になれるか」等々の相談が取り上げられていて、山田の回答とその理由が載っている。
 女装の夫に関しては、夫が女装趣味について悩んでいるように見えないことに山田は驚いている。年下の彼に振られた70代男性も、振られたことに悩んでいるのであって同性愛者であることに悩んではいない。バツイチの60代女性が付き合ってきた同年代のバツイチの男性の心変わりにあって苦しいと訴えている。高齢者の女性の恋愛問題が相談のテーマになっている。これも昔はなかったことだ。高学歴ワーキングプアも多くなっている。
 しかし総じてあまり面白くないというのが私の印象だった。すると、私は面白可笑しい事例を求めているのだろうか。多分そうなのだろう。朝日新聞の読者相談室「悩みのるつぼ」が好きなのは、上野千鶴子岡田斗司夫の過激でメチャ面白い回答を読むのが楽しみだからなのだ。もう亡くなってしまったが、回答者の車谷長吉は、教え子が好きになってしまったと相談を寄せてきた高校教師に、その子と出来てしまえと言う。その結果「破綻して、職業も名誉も家庭も失った時、はじめて人間とは何かということが見えるのです」と強烈な回答をしていた。
 山田昌弘は本当にまじめな人なのだ。人生相談の回答者としては適任だろう。私がどうこう言う場面ではなかった。