星野桂三『石を磨く』を読む

 星野桂三『石を磨く』(産経新聞社)を読む。産経新聞大阪本社版に平成14年4月から毎週1回2年間にわたって連載したもの。著者は京都の星野画廊のオーナーで、副題が「美術史に隠れた珠玉」とあるように、多くはほとんど知られることのない日本の近代美術の画家たちを紹介している。星野は作家の名前ではなく作品だけで判断しているので、中には作者不詳というのもある。私が名前だけでも知っていた画家はこの100名近い中でわずか20名に過ぎなかった。
 だが、知らない画家の絵でも星野が選んだだけあってみな素晴らしい。京都にはこんな立派な画廊主がいるんだ! 中に鹿子木孟郎(かのこぎたけしろう)について興味深い記述がある。

 思えば今から20年以上も前、毎週のように画廊にやってきたサラリーマン・コレクターのU氏と、ひと昔前の画人たちのことを熱っぽく語り合った。ある時、大切にしていた戦前発行の鹿子木の大画集『不倒山鹿子木孟郎画集』(1934年)を、書棚から出してきて見せると、「鹿子木は素晴らしい、生涯の研究テーマにしたい」というので、「研究のためなら」と遺族の住所を教えてしまった。半年も後の頃だろうか、U氏の自宅を訪問した時、玄関で思わぬ絵が私を出迎えた。鹿子木孟郎の秀作である。早速遺族を訪ねた彼は、作品を何点もせしめてきたのに違いない。ばつが悪そうにしているU氏を、私はただ見つめた。
 やがてU氏は東京で画廊を開いた。裏切られた思いであった。が、そのお蔭だろうか、作品の散逸を恐れた親族が動き、前述の回顧展が結実した。せめてもの慰めである。

 このU氏とは東京京橋で画廊を開いていたあの人だろうか。大阪でサラリーマンをしていたし。
 本書のささいな瑕疵を指摘したい。ノンブルの付け方が間違っている。ノンブルはページ数のことだが、本書は偶数から始まっているような体裁になっている。単行本では本扉の次の本文からノンブルを1とする。雑誌では表紙から1と振る。横書きの場合は反対になるので、私は簡単なノンブルの定義を考えた。
  見開きのページで若い数字が偶数
というものだ。もちろんこれは作者の問題ではなく、発行元の(株)産経新聞ニュースサービスの編集者の問題だ。パンフレットではこの誤りをたまに見かけるが、単行本ではめずらしい。



石を磨く―美術史に隠れた珠玉

石を磨く―美術史に隠れた珠玉