朝日新聞連載の「悩みのるつぼ」で10代の女性が「自分は羞恥心がない」と相談している(2016年1月16日)。
私は10代半ばの女性です。でも10代の女であるにもかかわらず、羞恥心が欠けているようなのです。(後略)
彼女は男性の担任教師が教室にいるときでも、担任に見ないようにしてもらって着替えした。でも担任の視界に入ってしまったようで、「開けっ広げに着替えしないでください」と恥ずかしそうに言われた。しかし見られたことに対して何も感じない。また公衆浴場や更衣室などで裸になることへの抵抗がまったくない。なぜみんな恥ずかしがるのか分からない。将来、自分が教育する立場になった時、納得した答えを教えたいと思っているのでよろしくお願いします、と相談している。
回答者は岡田斗司夫。
あなたは「ヘンな人」「セクハラさん」「上から目線な人」のどれかです。
簡単なチェックをします。
人前でウンチができちゃうなら、あなたの「羞恥心がな無い」は本物。この場合は「ヘンな人」。
「人前でウンチはできないけど、男性教師の前では着替えることができる」なら、「セクハラさん」の可能性あり。
そのどちらでもなければ、「上から目線な人」かもしれない。岡田の知り合いの某グラビアタレントは、人前で平気で着替える。テレビスタッフがいても、盗撮の可能性がなければその場ですっぽんぽんになってしまう。「恥ずかしくないの?」と聞いたら、「スタッフは虫けらだと思ってるから恥ずかしくない」と答えた。
その昔、貴族の奥方や娘たちも、使用人の前では平気でハダカになったそうです。同じ貴族同士では恥ずかしがるんですよ。でも使用人や奴隷の前では恥ずかしがりません。それは相手のことを「自分と同じ人間」だと思ってないからです。
あなたも同じじゃありませんか?
このエピソードは、会田雄次『アーロン収容所』(中公新書)と、後藤亜紀『星降るインド』(講談社)を思い出させる。まず、『アーロン収容所』から。会田は第二次世界大戦の終戦直後から2年間近くビルマでイギリス軍の捕虜になる。捕虜収容所で強制労働に駆り出される。その日は女兵舎の掃除であった。
その日、私は部屋に入り掃除をしようとしておどろいた。一人の女が全裸で鏡の前に立って髪をすいていたからである。ドアの音にうしろをふりむいたが、日本兵であることを知るとそのまま何事もなかったかのようにまた髪をくしけずりはじめた。(中略)裸の女は髪をすき終ると下着をつけ、そのまま寝台に横になってタバコを吸いはじめた。
入って来たのがもし白人だったら、女たちはかなきり声をあげ大変な騒ぎになったことと思われる。しかし日本人だったので、彼女らはまったくその存在を無視していたのである。
同じ捕虜のN兵長の経験も似たようなものだった。洗濯をしていたら、女が自分のズロースをぬいで、これも洗えといってきた。
「ハダカできやがって、ポイとほって行きよるのや」
「ハダカって、まっぱだかか。うまいことやりよったな」
「タオルか何かまいてよったがまる見えや。けど、そんなことどうでもよい。犬にわたすみたいにムッとだまってほりこみやがって、しかもズロースや」
会田は書く。彼女たちからすれば、植民地人や有色人はあきらかに「人間」ではないのだ。それは家畜にも等しいものだから、それに対し人間に対するような感覚をもつ必要はないのだ、と。
ついで、転勤した夫についてインドへ渡って生活した体験を綴ったのが後藤亜紀の『星降るインド』(講談社)だ。インドで後藤が耳鼻科の病院に行った時、日本人という物珍しさもあって、診療そっちのけでお客様扱いされ、ディナーの招待までされた。
私の病気は大したことがなかったので、同病院に入院中のインド人女性の室へ遊びに行った。彼女の部屋についている下働きのドビー(洗濯人)は、シュードラ階級(カーストの最下層)だが、その男に彼女は汚れ物をさっと放ってはどんどん洗わせている。私どももドビーは雇ってはいるが、自分の下着ぐらいはこっそり洗って、彼に洗わせるようなことはしない。「男のドビーにそんな物を洗わせて、恥ずかしいとは思わないの。」と聞いたら、「男だと思うから、恥ずかしいなんて感じるのよ。」と逆襲されてしまった。
さらに驚いたことに、男のスウィーパー(掃除人)が部屋を掃除していても、彼女は平気で着替えをして、とんと羞恥心を見せない。(中略)
彼女が言うには、「スウィーパーを人間と思えば恥ずかしいのかもしれないけど、私たちはスウィーパーなど犬ぐらいにしか思っていないの。犬がその辺をうろついていたって着替えぐらいするでしょう。」
岡田の「上から目線の人」ってある種普遍的な現象なのだった。「犬がその辺をうろついていたって着替えぐらいするでしょう」は残酷な言い方だ。その犬は人なのだから。また、イギリスは階級社会だし、インドはカースト制度の国だ。極端な表れをするのも不思議ではないのだろう。
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