吉行和子『兄・淳之介と私』を読む

  吉行和子『兄・淳之介と私』(潮出版社)を読む。女優の吉行和子が兄である吉行淳之介を語っている。しかし実際は兄を語っているのは3分の1ほどだし、その半分が亡くなってからのもの。和子にとって兄は大好きだったようだが、11歳も年上で子どものころはまともに相手にしてもらえなかった。終戦時で和子10歳、淳之介21歳だった。兄は家に寄りつくこと少なかったし、母あぐりは美容院の経営で忙しがった。和子は民芸に入り女優になったが、兄はほとんど見に来なかった。

 淳之介は麻雀が好きだった。自宅で打つときはもちろん、雀荘に行ったときもパジャマを持参して着替えてから打っていた。私は雀荘なんか行ったことがないから娘に訊いた、パジャマで麻雀している客っている? そんなのいないよ!

 本書で淳之介を語る部分以外では旅行記が面白かった。岸田今日子と突然思い立ってインドへ行った。今まででインドが一番印象に残ったという。モスクワへは鈴木忠志の「ディオニソス」という芝居の海外公演で行った。飛行機の中で映画『ロシア・ハウス』を眠いのを我慢して観たけれどあまり印象に残らなかったらしい。ジョン・ル・カレ原作の映画なのに。蓋に真珠じゃ。

 香港が好きでたった24時間の旅もした。食事と買い物が楽しいという。クーデンホーフ・ミツコを演じたことがあったのでチェコへ行った。

 交友録では松本典子が紹介される。和子は木冬社の芝居に6回も出演しているという。じゃあ、彼女の舞台を見ているかもしれない。だが私の好きな女優で木冬社に出ていたのは中村美代子というおばあさん女優だった。

 ニューヨークでは「オセロー」を見に行った。出演しているクリストファー・ウォーケンが好きだという。『ディア・ハンター』を観て以来好きになり、「私の中では、寝てみたい男、ナンバー・ワンだ」と書く。私が一番寝てみたい女って誰だろうと考えた。差しさわりがあるので書かないけれど。