新国立劇場のリーディング公演『スザンナ』を見る

 新国立劇場小劇場のリーディング公演『スザンナ』を見た(5月26日)。脚本はノルウェーの劇作家ヨン・フォッセ、演出が宮田慶子、出演は青山眉子(年老いたスザンナ)、津田真澄(中年のスザンナ)、山崎薫(若いスザンナ)。『人形の家』の作者イプセンの妻がひとりで語る芝居。だが、舞台には同時に3人の妻スザンナが座っている。年老いたスザンナはすでにイプセンを亡くし、中年のスザンナは息子が7歳になったところ、若いスザンナはまだ19歳、この後2年後にイプセンと結婚する。
 3人のモノローグだが、巧妙な作家の構成によって、3人が同一のテーマを語るので、ある種対話のようにも見え緊張感が生まれる。リーディングだから役者は芝居をしないが、台本を持って3つの椅子を交替してゆく。
 若いスザンナは語る。私は彼がほしい。彼は小さい男で9歳も年上、左右大きさが不揃いの目をしている。内気でいつもうつむいている。友達が彼のどこがいいのと聞く。私はイプセンがほしい。私は大女で醜い。姉は美人だけれど私はきれいじゃない。世の中の誰だって私より美人だ。
 中年のスザンナが言う。イプセンはほかの女に子供を産ませた。何人もの女と付き合っている。女中にも手を出した。でも私は彼が好き、彼も私を愛している。
 年老いたスザンナは語る。イプセンはどこに行ったの? 今夜は私の誕生日、私は彼を待っているのに。いいえ、彼はもう亡くなった。墓の中にいる。そんなことはない、彼はそこにはいない、わたしのすぐ側にいる。
 しかし、最後まで登場することのないイプセンの姿が舞台に立ち現れる。とてもいい芝居だった。何よりも戯曲が優れている。演出も良かった。役者たちも。
 見終わって思い出したのが清水邦夫の芝居『弟よ』だった。亡くなった坂本龍馬の姉と愛人のおりょう、そして友人たちが龍馬について語る。どこにも登場しない龍馬の姿が、観客の想像力で舞台にいきいきと立ち現れる。
 『スザンナ』、良い芝居だった。こんな良い企画が新国立劇場の「マンスリー・プロジェクト」の一環で無料だった。改めて礼を言いたい。