三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫)を読む。古い本だ。はじめ至文堂から1952年(昭和27年)に発行されたもの。三好は優れた詩人で『測量船』とか『駱駝の瘤にまたがつて』などの詩集がある。『測量船』は青空文庫でも公開されている。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001749/files/55797_55505.html
そこから、「雪」と「乳母車」を、
雪
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
乳母車
母よ――
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花(あぢさゐ)いろのもののふるなり
はてしなき並樹のかげを
そうそうと風のふくなり
時はたそがれ
母よ 私の乳母車を押せ
泣きぬれる夕陽にむかつて
※々(りんりん)と私の乳母車を押せ
(※=車編に隣の字のつくり)
赤い総(ふさ)ある天鵞絨(びろおど)の帽子を
つめたき額(ひたひ)にかむらせよ
旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり
いずれも有名な詩だ。その三好が日本の近代詩を取り上げて読みを解説してくれる。最初に島崎藤村の「千曲川旅情の歌」が紹介され詳しく分析される。その後、薄田泣菫、蒲原有明、北原白秋、伊良子清白、三木露風などが引かれるが、藤村を除いていずれも読むに耐えない。
口語自由詩という章で高村光太郎、山村暮鳥、千家元麿、室生犀星、佐藤惣之助、中野重治、大木惇夫らの詩が紹介される。これらはとても良い。
その後、何人かの詩が取り上げられる。萩原朔太郎、丸山薫、竹中郁、田中冬二、津村信夫、立原道造、中原中也、伊東静雄、室生犀星、堀口大学ら。これらの解説がとても良い。
田中冬二について、「この詩人の繊細な神経は、ともすれば人の見落としがちな微物の微小な情趣風姿を好んで凝視する。既にそれは人々から忘れられた見落とされがちな景物である」と評される。
津村信夫は、「無邪気な坊ちゃん坊ちゃんしたその清純な生涯は、それ自身一篇の童心豊かな抒情詩に外ならなかったかも知れぬ」。私も津村の「愛する神の歌」は好きだった。早世した姉を歌った詩で高校の教科書に載っていた。
愛する神の歌
父が洋杖《ステツキ》をついて、私はその側に立ち、新らしく出来上つた姉の墓を眺めてゐた、
噴水塔の裏の木梢《こずゑ》で、春蝉がないてゐる。
若くて身歿《みまか》つた人の墓石は美しく磨かれてゐる。
ああ、嘗つて、誰が考へただろう。この知らない土地の青空の下で、小さな一つの魂が安らひを得ると。
春から秋へ、
墓石は、おのづからなる歴史をもつだらう。
風が吹くたびに、遠くの松脂の匂ひもする。
やがて、
私達も此処を立ち去るだらう。かりそめの散歩者をよそほつて。
立原道造は高校生の頃の私の愛唱歌だった。三好は書く。「立原の詩にはいつも、孤独な若者らしい愛情とその青春の絶望とが、ないまぜになって美しい彼の歌を支えている」。
中原中也。三好の評はさすがに詩人のそれだ。「元来が彼は語彙と技法に乏しい詩人で、そちらの方に払われるべき当然の注意の配分を、殆んど惜しむような風に、彼自身の生の苦悩に深く執念くもの狂おしく潜入してゆくたちであった。そんな性行がそのまま彼のレトリックであったから、修辞用語の破綻百出などは、彼にとってはむしろさばさばとした痛快事であったかも知れぬ」。
伊東静雄も高く評価されている。ドイツ詩の影響を受けたかなり難解な詩だ。朔太郎も犀星もていねいに解説されている。
三好達治本人の詩について語られていないのが、当然ではあるが残念だ。
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