辻原登『東京大学で世界文学を学ぶ』(集英社文庫)を読む。芥川賞作家の辻原が東京大学で講義をしたものを書籍にしたもの。ゴーゴリから始まって、二葉亭四迷、辻原の書いたパスティーシュ、辻原の選んだ短篇小説集からボルヘス、フリオ・コルタサル、そして『ドン・キホーテ』『ボヴァリー夫人』『白痴』や『ねじの回転』が選ばれて、その優れた小説構造が分析される。すばらしい分析だ。さすが現役作家の文学論と素直に感心してしまう。
見事な分析だと思う。そう思いながら、美術でいえば、古典派の絵画の技法を解説されているような気もしてくる。古典派の見事な作品の後、印象派やポスト印象派、フォーヴィスム、キュビスム、表現主義、シュールレアリスム、抽象絵画と様々な様式が展開した。
辻原はフローベルやドストエフスキーの方法を絶賛する。そのことに誰も正面から反論できないだろう。だが、それらは19世紀の小説作品であり、現代はすでに21世紀なのだ。その間私たちは徒花のようなヌーヴォー・ロマンやジョイスや南米文学を体験している。だから辻原の主張に耳を傾けながらもどこか醒めて聞いている自分を感じざるを得ない。
いや、そんな批判的な意見を書きながらも、本書の続編『東大で文学を学ぶ』(朝日選書)が発行されたと聞けば、それも読んでみたいと思うのだった。

- 作者: 辻原登
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/03/19
- メディア: 文庫
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