彼岸花満開

 近所の公園の彼岸花が満開になった。彼岸花は有毒植物で、地下の鱗茎に毒がある。人里近くにしか生えていない。妖しく美しい花で、しかも有毒だなんて、どこやらの美女みたいだ。



 むかし飢饉の折り、この鱗茎を砕き水さらしして解毒し食用にしたという。これを救荒植物という。やはり地下の塊茎が有毒なテンナンショウ(天南星)やマムシグサ(蝮草)も同じように利用された。テンナンショウの餅は最近まで高知県の一部で食べられていたのではなかったか。
 そういえば、私の田舎(長野県喬木村)のさらに奥地ではハレの日にメダカを食べていたという。先日神奈川県立近代美術館で不意に声をかけて話をした創画会の滝沢具幸さんのお母さんが、私と同じ村出身だった。ちょっと似ていて同じ村の顔を感じた。いや、まさかメダカの話はしなかったし、滝沢さんはハンサムだが。
 彼岸花と天南星について、中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)から、

 マムシグサ、または天南星と呼ばれるのは、タローイモと同じ科の天南星科に属する、アリセーマ(Arisaema spp.)と呼ばれる属の植物である。このグループの植物は日本の中学校教科書には必ず毒草として図解してあるものだが、じつはこの類の毒イモがわりあい簡単に食用となる。同じようなことはやはり有名な毒草のヒガンバナでも同様で、これも食用となる。
 マムシグサ類のイモを食べる習慣は日本にいまにまで残っている。離島の伊豆御蔵島八丈島ではシマテンナンショウ(A. negishii)の野生球根を掘り、ゆでてから皮を剥き、臼でついて餅のようにして食べる。ヒマラヤの中腹にいくと、たくさんの種類が食用にされている。

 文中、「マムシグサ類のイモを食べる習慣は日本にいまにまで残っている」とあるが、本書が発行されたのがもう50年近く前の1966年(東京オリンピックの2年後)だったので、もう残ってはいないのではないか。
 私が本書を買って読んだのが、これも40年近く前になる。とても印象的な本で、今に至るも憶えていることが多い。

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)

栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)