『やさしく読み解く日本絵画』(とんぼの本)が分かりやすい

 前田恭二『やさしく読み解く日本絵画』(とんぼの本=新潮社)が分かりやすく、入門書としてとても良い。副題が「雪舟から広重まで」とあるように、取り上げられたのは雪舟狩野永徳長谷川等伯俵屋宗達尾形光琳、英一蝶、池大雅円山応挙伊藤若冲葛飾北斎歌川広重の11人。1人あたりほぼ14ページを充てて解説している。でも雪舟には19ページ、宗達も18ページ、永徳と北斎と広重が少なくて10〜12ページが充てられている。
 解説はきわめて分かりやすい。懇切ていねいな印象だ。教科書的な無味乾燥したものではなくて、主観的な感想をまじえて書いている。本書はもともと読売新聞の日曜版に連載されたものだという。前田は読売新聞の記者なのだ。だから分かりやすく、読んでいて楽しい。「とんぼの本」だからカラー図版も豊富で、代表的な日本絵画の古典がよく分かった気になる。
 雪舟の代表作の「秋冬山水図」の「冬景」についてはこう紹介されている。


 崖の線を、ほぼ中央あたりに引いた−−そこで雪舟は一呼吸置き、全体を見渡したのではないだろうか。思った以上に鮮烈な印象がある。この垂直線を生かして、絵をまとめあげるべく、雪舟は再び、やや性急に筆を動かしはじめる。
 夜空に雪山がしらじらと浮かぶ。その手前にもうひとつ、おぼろげに遠山が描かれている。遠山の前にまた遠山というのは不自然なのだが、全体を眺めると、右半分にある大きな岩と、左右対称の位置にあたる。たぶん雪舟は垂直線を描いてから、左右のバランスを取ろうかと考え直して、この遠山を描き加えたのである。
 左右ばかりではない、画面下方には、いやに濃い墨を落とした部分がある。これも一幅の重石とすべく、垂直線の下方に付け足したふしがある。
 どう見ても、最初から計算して描いたとは思えない。描きながら修整し、つじつまを合わせている。

 俵屋宗達も詳しく紹介している。取り上げられた作品は、「扇面貼付屏風」から「田家早春図」と、「源氏物語関屋澪標図屏風」「蔦の細道屏風」「蓮池水禽図」そして「風神雷神図屏風」の5点。

 このうち、「蔦の細道屏風」一双を左右に配して真ん中に座って見れば、右隻の左端が左隻につながり、左隻の左端が右隻につながって、円環をなしているという。単純に見えるこの屏風がにわかに面白くなってくる。
 北斎の「冨嶽三十六景」の「山下白雨」や「神奈川沖浪裏」に、富士山のほかに山型が描かれていることを指摘した、高階秀爾、絵理加父子の説を紹介している。
 とても勉強になった日本絵画の入門書だ。


やさしく読み解く日本絵画―雪舟から広重まで (とんぼの本)

やさしく読み解く日本絵画―雪舟から広重まで (とんぼの本)