島尾新『雪舟の「山水長巻」』は特別のお勧めだ

 島尾新『雪舟の「山水長巻」』(小学館)を読む。これがすばらしい。雪舟の代表作「山水長巻」だけを1冊使って詳しく紹介している。「山水長巻」は国宝の巻物で、広げると長さが約16メートルもある。山口県防府市の毛利博物館が所蔵していて、1年か2年に1回公開している。
 まず本書の冒頭に3段にわたって、巻物の全体図が掲載されている。ついで本文にそれらが見開きで15図に分けて紹介される。図の意味などが解説され、描き方も説明される。さらにその一部が取り出され、見開き15図にわたって拡大して掲載され、見どころが指摘される。これらが全ページカラー印刷になっている。「山水長巻」は水墨画とはいえ、着彩もされているのだ。実に贅沢な企画といえる。
 以上が前半で、後半は「山水長巻」について、書誌学的なこと、雪舟の伝記、これ以外の雪舟の作品、また夏珪など中国の画家との違いなどがていねいに語られる。
 今までも「山水長巻」については、雪舟の図版などで眼にしてきた。しかし実物をゆっくり見たわけではないので、山水画の描き方だくらいにしか印象に止めなかった。しかし本書は半分を詳しい紹介に充てている。巻物の冒頭に小さく高士が歩いており、その後ろに天秤棒に大きな荷物を担った童子が続いている。それを大きく拡大して見せている。小さく見えた高士が実にしっかり描かれている。

 あるいは山の中の村を描いた場面では、たくさんの人が出てきているとして、数えると全部で54人と指摘する。それをまた拡大して、人々の衣服に多くの色が使われているとして、「まずは赤、これは上のほうの木に使われているのと同じようだ。青は岩にも使われている。そして木の葉や軒下にも見える緑と茶。色のなさそうな衣や酒旗にも白が塗られている」等と説明されている。
 この1冊を読んだだけでも雪舟に対する理解が格段に深まった気にさせられた。すばらしい見事な本だと思う。
 著者は本書発行時点(2001年)で、独立行政法人東京文化財研究所美術部の室長とある。以前はたしか東京国立博物館に勤めていたはずだ。当時一度会ったことがある。先祖から伝わる尊円法親王の書というのを鑑定してもらいたいという知人の依頼で、それを小松茂美先生にお願いし、ほぼ間違いないでしょうとの返事をいただいた。売ろうなどと考えずに博物館へ寄付するのが良いでしょうとの手紙に、知人が東京国立博物館へ寄贈した。その時博物館で相手をしてくれたのが島尾新さんだった。小松先生はわれわれの大先輩ですと言われた。厳島神社の平家納経を研究した大先生だった。そのことを書いたのが、下の「小松茂美先生」だ。


小松茂美先生(2006年9月18日)


雪舟の「山水長巻」風景絵巻の世界で遊ぼう (アートセレクション)

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