山本弘の作品解説(40)「裸婦」


 山本弘『裸婦』油彩、F8号(45.5cmx38.0cm)
 1967年11月に描かれた。山本弘37歳。1970年以降の晩年の傑作群の少し前の作品。デフォルメしながら形態の捉え方は確かで、とても巧みだ。しかしながら、晩年の作品に比べれば過渡期の作品だ。おそらく飯田市で開かれた個展で発表されたのみで、東京ではまだ展示されたことがない。
 モデルは顔かたちや体型から愛子夫人に間違いないだろう。いや彼女のヌードを見たことはないが。
 愛子さんによれば、弘さんの前でポーズをとったことはないという。山本は映像記憶に優れていたので、一度見れば眼前にしなくとも自由に描くことができたのだった。
 当時、絵の仲間が共同して東京からモデルを呼んでクロッキー会をしたことがあった。山本はその会場に酔ってふらつきながら現れて、自分は描くことなく仲間のクロッキーを見て回りながらへらへら笑っていた。そして後日、自宅のアトリエで正確な裸婦の素描を描いていたという。