山本弘の作品解説(99)「重い手足」

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重い手足

 山本弘「重い手足」、油彩、F12号(60.8cm×50.0cm)

 1977年制作、47歳のときのほとんど最晩年の作品。題名から2度の脳血栓の後遺症による不自由な手足、つまり自分のことを描いている自画像だと分る。足はいいつも引きずっていたし、手も不自由だった。小さな字は書けなかったし、繊細な曲線を描くことも苦手だったと思う。

 作品を見ると、足はどっしりと体を支えている。しかし重い手はどれだろう。顔の両側に白い三角や四角が描かれている。胴体は二重の楕円で表されている。よく見ると胴体の両側に茶色で短い手が描かれている。すると、足は重く手は不自由なことが伝わってくる。

 山本は飲んで無茶を言ったり怒ったりもしたが、基本的にユーモリストだった。お茶目だった。愛子さんとけんかして家から追い出したあと、実家に帰った彼女を連れ戻すために、私のバイト先に現われて、ぼくはもう駄目だと言って芝生を選んで倒れ、電話して女房を呼んでくれと言った。電話すると愛子さんも帰ってきた。弘さんの幼稚な芝居を笑いながら。

 思えば生涯の3分の1を脳血栓の後遺症=重い手足で過ごしたのだ。足を引きずり、手は自由が利かず、言語障害もひどかった。だが、なぜか絵は脳血栓後に見事に開花したのだった。