ギャラリー現の井上修策展「イキタ」が見事!

 東京銀座1丁目のギャラリー現で井上修策展が開かれている(12月22日まで)。この個展は最近のベストだろう。画廊の床と壁に口紅のような突起物が張り巡らされている。これは何なのか? 






 タキイ種苗のポリエチレン製の播種用ポットをひっくり返して、その頂点にどんぐりを植え込んでいる。どんぐりの個数31,744個という! 圧倒的な量にもう感嘆するしかなかった。作家のテキスト。

 枯葉の多い場所で、どんぐり拾いをするとわかる話ですが、あの弾丸のような形は、枯葉や枯れ枝の隙間をどんどんぐりぐり地面に向かって進み、発芽しようとする、強い生命力の形であることがわかります。また、リスなどの小動物が巣に持ち帰り、隠し、蓄えるという習性を利用し、うっかり忘れ去られたどんぐりが翌春、発芽するのだそうです。子孫を残すための戦略です。しかし、発芽できるのはほんの一握りです。
 どんぐりは、縄文土器の中から発見されていることからもわかるように、ヒエやアワと同じように太古の昔から主食として食べられていました。そんな身近で、強い生命力と時間概念を持ったどんぐりを、素材として使うことにしました。
 ドングリを拾った年は12年前と震災の年です。それらが作品の中で混在しています。どんぐりの数は、私の母(昭和元年1月生まれ)が現在まで生きた日数とほぼ同じ数(日本人女性の平均寿命ともほぼ同じ日数)31,744個です。さらに、国内における年間の自殺者数、そして孤独死者数ともほぼ同じです。
 平和のシンボルが鳩、幸運のシンボルが四葉のクローバーのように、長寿のシンボルはどんぐり、ということらしいのですが。
 黒いシート状の物は、ポリエチレン製の種子セルトレイの裏を使ったものです。

 テキストの文章も立派だが、意味を忘れてただ眺めただけでその量感に圧倒される。圧倒されると書いたが、その印象は圧迫されるようなものではなく、楽しくおもしろいものだ。ある種単純なものなのに、なかなか見飽きることなく立ち去りがたい。
 なお標題の「イキタ」は種子セルトレイに印字されているタキイ種苗の「タキイ」を裏側から読んだものだという。井上はユーモアを忘れないのだ。
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井上修策展「− イキタ −」
2012年12月10日(月)−22日(土)
11:30−19:00(土曜日17:30まで)日曜休廊
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ギャラリー現
東京都中央区銀座1-10-19 銀座一ビル3F
電話03-3561-6869
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