ユネスコの記憶遺産に登録された山本作兵衛の炭坑画


 山本作兵衛の炭坑画がユネスコの記憶遺産に登録された。そのことが7月28日のNHKテレビ「クローズアップ現代」で取り上げられた。山本は50年以上の炭坑夫の体験を60歳を過ぎてから記憶をたどって描き始めた。素人画家の絵だが、実際に体験したリアリティが見るものを圧倒する。斜めの坑道を石炭を積んだトロッコにロープをつけて、男女とも上半身裸で引き上げる。仕事の後、男女混浴で入る大浴場。日本刀を振り回す炭坑夫どおしの喧嘩。坑内の爆発事故。
 私はこの絵を2009年12月の目黒区美術館の企画展「'文化'資源としての〈炭坑〉展」で見ている。
「'文化'資源としての〈炭坑〉展」が面白い(2009年12月27日)
 そして次のように書いた。

 絵画は野見山暁治(お父さんが炭坑の持ち主だった)、横山操、浮田克躬、池田龍雄岡部昌生等々、見応えがあり、写真は土門拳奈良原一高、佐藤時啓まである。しかし何と言っても圧巻は炭坑の仕事や炭坑夫の日常を描いたイラスト(マンガ)だ。坑内では石炭を積んだトロッコを坑夫や坑婦が上半身裸で引っ張り上げている。日本刀を振りかざした喧嘩や、リンチで拷問をしている絵もある。土門拳が撮った炭坑から出てきた坑夫の顔は真っ黒だ。炭坑の労働がこんなにも過酷なものだったとはうかつにも知らなかった。

 これは山本作兵衛のことだが、私は山本の名前を書いていない。その絵に圧倒されたにもかかわらず、(絵画)作品としてはあまりの稚拙さに無名の素人画家扱いをしたのだろう。いや、下手の極地でありながら、丸木スマの作品はすばらしいのだから、下手=稚拙なのは作品の評価に直接は関係しないだろう。
 山本作兵衛の絵は下手で美術作品としての魅力がない。だが、ユネスコの記憶遺産に登録された。炭坑の記録として世界的に重要なのだった。絵だから、つい作品として見てしまった。それが山本作兵衛のすごさを見逃してしまった原因だったと反省している。