未来のファッション

 乗り換えのために電車を降りた私の前を若い女性が歩いていた。彼女のファッションは、ベージュの短パンに黒いストッキングだった。短パンは刺繍だかレースだかで飾られている。それは下着を連想したが、まぎれもなくアウターである。もちろんインナーに似せたアウターだ。
 ファッションはタブーを破る方向で進化してきた。もう45年以上前、高校生向けの雑誌「高一コース」だったか「高二コース」だったかの服装についてのアドバイスコーナーでは、女子の服装は体の線が出ないものを強く勧めていた。でないと下品だという。だがファッションがその後どのような方向を辿ったかはご存知のとおりだ。
 そして、この先女性のファッションがどうなるのか、小川一水のSF「天涯の砦」(ハヤカワ文庫)にはっきりと書かれている。

 そこにいたのは、見たこともないほどきらびやかで破天荒な姿の娘だった。若いといっても功より三つは年上だろう。メタルとクリスタルの鋭利な原色チップをふんだんんい縫い付けた、目の覚めるようなイエローのピスチェとフレアミニスカート、長い金髪をサファイアビーズの鎖で螺旋に縛り、海蛇の尾のようにのたくらせている。手先、爪先は、ピアチェと同色の多重光沢を持つレザーで手袋とブーツを仕立てて覆っている。
 何より目を引くのは露出した白い肌だ。小さな肩から正円錐に近い乳房の上半分まで、つやを帯びたきめ細かな肌をむき出しにしている。下半身はさらに過激で、スカートは股下にも届いていない。恐ろしく長くて細い脚の全長が、いやでも目に入る。股間を覆うブルーのショーツは薄く小さすぎて冗談にしか見えない。

 おそらく10年以上先の風景ではないだろう。
「天涯の砦」は故障した宇宙ステーションでのリアリスティックなサバイバルを描いた真面目なSFだ。未来のファッションにしか興味のないどこぞのスケベ親父とは毫末も関係ない。


天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)