作曲家の二つのタイプ

 現代音楽の作曲家として高い評価を得ている吉松隆慶應義塾大学の工学部に学んだ経歴を持ち、作曲は独学で学んでいる。その吉松の『クラシック音楽は「ミステリー」である』(講談社+α新書)に作曲家を二つのタイプに分けた章がある。
 まず生まれながらの天才型(アポロ型)の作曲家がいる。モーツアルトロッシーニショパンシューベルトらが数えられる。しかし、彼らは早期教育による「促成栽培」の結果であり、自分の意志で音楽を選択して「才能」を噴出させたわけではない。
 それに対してディオニソス型(苦労して育った自律型タイプ)の典型は、ベートーヴェンであり、それにベルリオーズワーグナーブラームスブルックナーチャイコフスキームソルグスキーを始めとするロシア5人組の面々、ストラヴィンスキーシベリウスたち。著者の吉松隆もこのタイプだという。

 早期教育は「その道を究める」のに必要不可欠なものながら、大きな(そして致命的な)問題があると私は確信している。それは、「自分で道を切り拓く」楽しみを奪ってしまうことと、純粋培養ゆえに「多様性に欠ける」ことだ。(中略)
 純粋種は、たったひとつの要因(病気や環境変化)でたちまち絶滅することがある。早熟型天才もそれに似ていて、「若さ」で売れていた時代を過ぎた頃に訪れる袋小路や挫折が、人生においても致命傷になることが少なくない。これは、早熟型天才の悲しい運命だ。
 その点「自律型」の音楽家は、物心ついてから自分自身の意志で音楽を目指しているから、最初に挫折や袋小路を抜けて来ている。ゆえに、その後の環境変化が多少あろうとも、すぐさま絶望に陥るという確率は低い。(中略)挫折や失敗は「そこでおしまい」ではなく、新しい始まりなのだ。

 吉松はこんなことも言っている。

 おそらく古代ラテン語だろうがヒンディー語だろうが、子供の頃から話して聞かせていれば、ほぼすべての子供が自在に扱えるようになる。
 しかし、問題は「それで何を話すか?」という点だ。古代ラテン語をぺらぺら喋る……というだけで他には何の知識もないとしたら、翻訳家や通訳にすらなれない。その言語を理解していると同時に、その裏にある文化そのものを吸収していなければ「読み上げマシン」に過ぎず、何の意味もない。

 ちょっと厳しい意見だとも思うが、雑誌『BRUTUS』2月15日号に掲載されている、秋葉原で毎日会えるアイドルAKB48のガールズトークから、

前田敦子  あっ、あとは悩みといえば漢字が読めないこと(笑)。学生時代をほとんどAKB48に費やしているから学校の勉強をちゃんとできてないと思う。
秋元才加  私たちは高3からAKB48に入ったのでまだいいけど、あっちゃんたちは、中3くらいからだもんね。
大島優子  本当に心配になるよ。
前田  台本の漢字が読めないときは、調べるのに必死だよ(笑)。
高橋みなみ  でも、しょうがないよ。生きている限り、悩みはあるでしょ。

 いや、まさかAKB48ガールズたちがアポロ型だと言ってる訳じゃないけど。
 久しぶりに『BRUTUS』を買って、このレイアウトには全くついてゆけなかった。おじさんには読みづらくて、写真だけ見て古雑誌入れに投げ込んでしまった。

クラシック音楽は「ミステリー」である (講談社+α新書)

クラシック音楽は「ミステリー」である (講談社+α新書)