練馬区立美術館の菅原健彦展

 練馬区立美術館が菅原健彦展を開いている(12月27日まで)。菅原は1962年東京都練馬区生まれ。多摩美術大学日本画専攻に入学し、翌年西武美術館で横山操展を見て衝撃を受ける。その翌年ドイツのカッセルのドクメンタ8でアンゼルム・キーファーを見て衝撃を受ける。
 以上は展覧会の目録の記載による。なるほど初期には横山操を彷彿とさせる大画面の「新宿風景」や「246(にいよんろく)」などが並ぶ。どちらも夜の道路に流れるヘッドライトの光を描いたものだ。それぞれ左右7m余と8m50という大きさ。横山に似てダイナミックな日本画で、少し荒っぽいところまで共通だ。
 1993年に描かれた「円形のジャングルジム」は今回初めて見た。ただこの下絵になるドローイングは当時ギャラリーイセヨシで見ている。空間の描写力がすごいと思った。ほしいと思ったが10万円の値段が付いていて買えなかった。
 やがて横山操よりキーファーに近づいていく。ただ造形においてキーファーの影響を受けるが、キーファーの思想性は菅原には感じられない。戦後ドイツに育ってナチス負の遺産と政治的混乱を経てきたキーファーとは育った社会的環境が全く違っているためだろう。
 年を経るごとに画面は穏やかなものに変わっていく。「アパートの庭」「五月雨」「舞台」「アパルトマン」などなど。
 10年ほど前、薄墨桜を描く。墨絵の桜の老木が多く描かれる。そして山水画が描かれる。2000年の「石の橋」の見事なこと。2004年の「音」と題された2月の大山を描いた静かな冬山。あるいは「聴音無量」と題された渓谷を流れる激しい水。色彩は淡彩になっている。
 美術館の吹き抜けの壁2面を飾っているのが今年描かれた「雲龍図」と「雷龍図」だ。巨大で華やかな作品だ。前者は横10m、縦5mもある。
 こんなに優れた画家になっていたとは知らなかった。小さな画廊での個展は何回か見てきたが、菅原は大作に優れた画家なのだった。おしゃれな日本画を専門とする画廊に展示された小さな作品からは、ここまで優れた画家だとは分からなかった。菅原健彦の全貌を知ることができて良い展覧会だった。