東京都写真美術館の北島敬三展、そのほか

 恵比寿にある東京都写真美術館で北島敬三展が開かれている(10月18日まで)。「北島敬三 1975ー1991、コザ/東京/ニューヨーク/東欧/ソ連」と題された写真展は、それらの地域でスナップショットしたもの。北島は森山大道に師事し、ブレボケの手法で街を撮っていた。1975年ころから東京や沖縄の街や人を撮りまくっていた。そして新宿2丁目のギャラリーCAMPで毎月写真展を開いていた。大きく引き伸ばした白黒写真が壁を覆い尽くし、写真はまだ完全には乾燥していなくて、現像液だか定着液の臭いがギャラリー内にたちこもっていた。
 北島の写真は1枚1枚に美しさや構図のすごさといったものはなく、大量に撮影した数量の迫力や、撮ったばかりの写真が生で並べられている鮮度の良さで圧倒していた。当時毎月北島の写真展「写真特急便」を見にCAMPへ通っていたのだった。
 このCAMPの入っているビルの前には新宿2丁目を象徴する発展場としての小さな公園があり、昼間しか知らない私にも何となく怪しい雰囲気が感じられた。
 狭いCAMPで荒木経惟の講演を聞いたこともある。荒木が雑誌「太陽」に明治の元勲の子孫たちという連載をしていた頃で、落魄していた誰かの子孫を大きなタヌキの置物の横に立たせて、ズボンのファスナーが開いていたのをそのまま撮影してやった。そのことに奥さんが気づかぬよう助手に奥さんを遠ざけさせて、などと言っていたのをまだ憶えている。
 北島はCAMPに強い思い入れがあるのか、数年前彼が主催するPHOGRAFERS GALLERYを以前CAMPのあったすぐ近くのビルにオープンした。新宿2丁目のど真ん中だ。そのギャラリーがオープンしてすぐ見に行った土曜日の午後、路地の入り口に若い男の子たちが数人立っていた。これが噂の売り専ボーイたちかとちょっと感動した。
 東京都写真美術館ではほかに「旅ー第2部」として「異郷へ」という写真展も開かれている(9月23日まで)。これも面白かった。内藤正敏、秋山亮二、土田ヒロミ、牛腸茂雄荒木経惟森山大道須田一政柳沢信北井一夫など錚々たるメンバーだ。北島も含めてすべて写真美術館の収蔵品とのこと。立派なことである。4階には写真専門の図書室もあり、こちらは無料で利用できる。