サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」の新訳

 サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」の新訳について4月12日の毎日新聞池澤夏樹による書評が載った。本書の発行は奥付で見ると昨年の10月20日だから、書評としてはちと遅いがそれは良しとしよう。柴田元幸全編新訳と謳ってある。
 池澤夏樹は書いている。

僕が今回この新訳で上位に置いたのがこの「バナナフィッシュ日和」と「エスキモーとの戦争前夜」、「笑い男」、「ディンギーで」の4篇。

 そして「エスキモーとの戦争前夜」について、こう書く。

 この年頃の心理と言葉づかいが巧妙に再現され、そこに躍動感がある。だからこそ柴田の新訳は喜ばしいのだ。以前の訳よりもずっと今っぽくなっている。「いちおう知らせとくけど」とか「そういうことじゃなくて」とか、「知るかよ」とか、言葉がぴちぴち跳ねている。

 そのとおりだ。「ナイン・ストーリーズ」は「九つの物語」とか、何人もの訳者が訳している。それにわざわざ新しい訳を加える意味はあったと思う。訳者に対して何の不満もない。不満は出版社に対してのものだ。編集者はいったい何を考えているのだろう。
 本書はムックのような形で、「モンキービジネスmonkey business 2008 Fall vol.3 サリンジャー号」として発行されている。表紙には「ナイン・ストーリーズ J. D. サリンジャー」と書かれているが、背を見たら「monkey business」しか読みとれない。雑誌の形式を採っているので、表紙はペラペラの薄い紙で並製本なのだ。下の写真の本棚の赤い2冊の本の右側に立ててある黄色い本がこれだ。書店で平積みか面陳(めんちん、書棚に表紙が見えるよう陳列すること)されない限り、まず気づかれないだろう。

モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号

モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号