大橋巨泉のこと

 昔から大橋巨泉が嫌いだった。テレビで見る度になんだあんなヤツと思っていた。最近は時々「開運! なんでも鑑定団」にゲスト出演することがある。そのたびに嫌なヤツと思っていた。太った顔がいやだった。巨泉が軽薄野郎だから? そうではないことが分かった。毎日新聞に載っていた大橋巨泉の新刊紹介を読んで思い出した。

今週の本棚・本と人:『大橋巨泉の超シロウト的美術鑑賞ノート』 著者・大橋巨泉さん


 ジャズ評論と俳句からスタートして、野球、競馬、将棋、つり、料理……。多趣味の「元祖」が9年前に突然、美術にはまり、74歳にして美術評論の世界にデビューした。
 美術だけは「子供のころから絵が下手くそだったから」縁がなかった。はまるきっかけは妻寿々子さんとの結婚30周年記念旅行だった。スペインの観光ガイドブックにマドリードプラド美術館が大きく載っていた。友人の俳優、石坂浩二さんに「プラドへ行ったらどうすればいい?」と尋ねると、「ただ本物の前でじーっと見る、それだけでいいです」。ロヒール・ファン・デル・ウェイデンの「十字架降下」に20分立ちつくした。それから毎年、世界の美術館をめぐり、感じたことをメモにしてきた。

 そうなのだった。大橋巨泉の奥さんは元タレントの浅野寿々子さんだった。私は彼女と同い年で高校生の頃から好きなタレントだったのだ。それが20歳そこそこの頃、14歳も年上の大橋巨泉がさらっていってしまったのだ。もうとうに浅野寿々子さんのことなど忘れていたのに、大橋巨泉への嫌悪感(嫉妬)だけは地下水脈のように見えない地下を流れていたのだ。このことを知って自分でも驚いている。