"Gay American Composers"というCD、デル・トレディチの悲しみ

mmpolo2007-09-01




 "Gay American Composers"というCDがある。5人の作曲家が収録されているが、その中に私の好きなDavid Del Tredici デイヴィッド・デル・トレディチが入っている。デル・トレディチもゲイだったんだ。他の4人は知らない作曲家ばかりだ。Chester Biscardi, Chris de Blasio, Conrad Cummings, Lou Harrison読み方も分からない。売れたらしくVolume 2も出たようだ。こちらは別の作曲家が収録されている。でもゲイの作曲家を集めることにどんな意味があるのだろう。
 10年前に広告を見つけて買わないでいたら、アマゾンのユーズド商品で4,000円近い値段がついていた。Amazonでは1.49ドルだけど。買おうかどうしようか悩む。
 デル・トレディチがゲイだったことで分かったことがあった。彼の代表作は、「夏の日の思い出」だ。副題が「ルイス・キャロルの《不思議の国のアリス》と《鏡の国のアリス》に基づく」だ。
 CDでは、ソプラノ:フィリス・ブリン=ジョルソン、指揮:レナード・スラットキン、セントルイス交響楽団となっている。
 当時紹介された音楽雑誌の解説を引用する。筆者は出谷と姓のみ記されている。

 この〈夏の思い出〉は「アリス」の第1部にあたり、アリスの主題一つで出来ている。導入から3分40秒でアリスの主題が出るが、これが実にノスタルジックで感傷味に満ちた旋律で、古き良きアメリカを回想するような趣がある。どこか新しいマーラーを思わせる雰囲気で、ドラマティックな起伏も充分あるが、聴きどころはその抒情性にあるだろう。ブリン=ジャルソンのソプラノは、独特の発声法でデル・トレディチの世界を存分にうたい上げる。55分10秒から「何故なら《幸福な夏の日》は過ぎ去り」と、ソプラノがうたい出すあたりは、この上もなく感動的である。(後略)

 この最後の一連は次の通り。ルイス・キャロル鏡の国のアリス」(脇明子・訳、岩波少年文庫)から

たしかに ため息のなごりのようなものが
  お話をそっと震わせていくこともあるかもしれない
だって 「あのしあわせな夏の日々」は遠くすぎさり
  真夏のかがやきは消え失せてしまったのだから
でもそれが このひとときの心楽しいおとぎ話に
悲しみの息を吹きかけることだけは 断じてさせはしない


And, though the shadow of a sigh
May tremble through the story,
For 'happy summer days' gone by,
And vanish'd summer glory-
It shall not touch, with breath of bale,
The pleasance of our fairy-tale.

 作曲家は「なぜなら《幸福な夏の日々》は遠くすぎさり」の歌詞にこだわってこの曲を書いたのに違いない。デル・トレディチのそれが何かは分からないが、あるいはゲイのパートナーとの幸福な夏の日々の喪失を嘆く歌なのかもしれない。曲から悲しみが伝わってくる。