辛い料理への嗜好


街道をゆく〈20〉中国・蜀と雲南のみち (朝日文庫)

 司馬遼太郎の「街道をゆく」20巻「中国・蜀と雲南のみち」に四川省の人が唐辛子を好むというくだりがある。

 私はかつて北京で四川出身のスポーツマンに会ったことがある。彼は北京じゅうの唐辛子を集めて食えといわれても私は大よろこびするばかりです、と冗談をいった。ついでながら、四川人は、他の中国の各省人から唐辛子を偏愛することで知られている。

 農林水産省の農業研究センターに研修に来た中国の若い女性研修生が圃場に植えてある唐辛子を採っておいしそうに食べ始めた。真似して一つ採って口に入れると焼け付くくらい辛かったと職員が話してくれた。
 もうすごく古い話だが、こんなに韓国料理が普及してない頃、横浜鶴見の韓国料理屋でカルビクッパを注文した。店員のお兄さんが、お客さん、うちのカルビクッパはすごく辛いけど大丈夫かい? と聞いてきた。日和ってやめた。当時から鶴見は韓国や沖縄の人が多かった。
 韓国料理も辛いものが多い。元々朝鮮半島に唐辛子を伝えたのは日本だ。南蛮から日本に入り、それを朝鮮に伝えたのだ。ということは、辛いものに対する嗜好は後天的なものだろう。四川省でも韓国でも、嫌がる子どもたちに無理矢理辛い料理を食べさせて慣らしているのだろうか。
 そうではないようだ。お母さんが食べたものが胎盤を通じて胎児に伝わり嗜好が形成されているのではないかと思い至ったのだ。