「タンゴ・冬の終わりに」

 シアターコクーンで「タンゴ・冬の終わりに」のマチネを見る。当日券を買うために2時間並んだ。前売りは先月発売開始30分で売り切れたのだった。
 清水邦夫・作、蜷川幸雄・演出。22年前1984年の初演は衝撃的だった。台本も演出もいい。蜷川は清水と組むと良さが発揮できる。本当に群衆の動かし方がすばらしい。
 今回、主役の清村盛を演じた堤真一は好演していたが若すぎる。台本の設定も40歳代ではなかったか。口跡もとても良いとは言いかねた。清村のかつての恋人水尾を演じた常磐貴子は良かった。終わってからチラシを見て彼女が常磐貴子だと知った。見る前に名前だけでも知っていたのはこの子だけだった。清村の妻を演じた秋山菜津子も若すぎる。どうしても初演の平幹二朗(清村)や松本典子(妻)と比べてしまう。
 清水邦夫の芝居は、狂気を取り入れて現実と重ね合わせ、微妙なずれを作り出す。その時「夢の時間」が現れる。「タンゴ〜」では二人がタンゴを踊るシーン、一瞬愛が戻ったかと思わせる。「哄笑ー智恵子抄」では智恵子の錯乱が癒えたかにみえて高村光太郎が束の間幻想を味わうシーン。
 「弟よ!」では狂気ではないが、姉やおりょうや友人たちが坂本龍馬の言葉を復唱すると舞台にすでに死んだ龍馬のイメージが立ち現れる。
 学生運動に象徴される新左翼の政治の季節が挫折した後を描いたこの「タンゴ〜」は本当にいい芝居だった。 もしかして、どこかで島尾敏雄の「死の棘」と通底していないか。