『楽屋』観劇のすすめ


 先日(4月21日)、朝日新聞夕刊にも紹介されたが、現在東京都世田谷区梅が丘BOXで清水邦夫作『楽屋』が連続競演されている。燐光群アトリエの会主催で、『楽屋』という芝居を18団体が競演する(4月27日〜5月10日まで)。
 18の団体が共通の舞台、セットを使って、ほぼ毎日5公演を上演する。この芝居は清水邦夫が主宰する木冬社が1977年に初演し、以降数多くの劇団で上演されてきた。私は2009年にシアタートラムで上演された舞台をNHKテレビが放送したものを録画し、DVDに記録して何度か見てきた。とてもおもしろい芝居だ。
 舞台には二人の女優が座って化粧している。ここは楽屋で出番を待つ女優たちのようだ。そこへもう一人の華やかな女優が現れて、チェホフの『かもめ』の台詞を言いながら出演の準備をしている。なぜかいま現れた女優は二人の女優の存在に気がつかないようだ。つぎに4人目の若い女優が現れる。彼女も最初の二人の女優の存在には気がつかない。どうやら最初の二人の女優は幽霊のようだ。しかも舞台経験が長いにもかかわらず重要な役がついたことがなく、終始プロンプターだった。プロンプターだったからほとんどのセリフを暗記している。なるほどプロンプターは存在するのに姿を見せない、これは幽霊に似ていると清水邦夫は考えたのだろう。(プロンプターとは見えない所にいて、台詞を忘れた俳優に台詞を教える役)
 若い女優は入院していた病院から退院して来たという。彼女は華やかな女優のプロンプターをしていたらしい。華やかな女優がまたプロンプターに戻ってほしいというが、若い女優は『かもめ』のニーナの役を返してほしいと言う。
 最初の二人の女優が、チェホフの『かもめ』やシェイクスピアの『マクベス』、三好十郎の『斬られの仙太』などの台詞を読みあい、わずかながらそれらの舞台が再現する。この辺りは清水邦夫の巧いところだ。『タンゴ、夜の終わりに』や坂本龍馬が亡くなった後の家族や友達の姿を描いた『弟よ』に通じるものがある。
 とくに劇的な事件もなく、たった4人の女優が舞台上で語ったりチェホフなどの台詞を言うだけの芝居なのに、強く心を打ってくる。チェホフの『三人姉妹』のラストシーンの再現も、この『楽屋』という芝居と有機的なダブルイメージで訴えてきて切ないものがある。
 主宰している燐光群のホームページを見れば、詳しい公演内容が記されている。私も今夜見に行くつもりでいる。料金は団体によって異なるが当日券で3,300円〜2,000円と安価だ。上演時間は1時間30分程度だろう。連休中あるいは前後にぜひ見に行かれることをお薦めする。


燐光群のホームページ
http://rinkogun.com/index.html
電話:080-3408-6594(実行委員会)