Stepsギャラリーの中澤小智子展を見る

 東京銀座のStepsギャラリーで中澤小智子展「神話と祈り」が開かれている(11月12日まで)。中澤は1996年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻を修了し、1997-1998年にイタリア政府給費留学生としてミラノ芸術アカデミーに学んでいる。Stepsでの個展は2013年に続いて2回目となる。

 今回の個展について、画廊主の吉岡まさみの的確な紹介があるので、それを引用させてもらう。


 入口すぐの右手に手の彫刻がある。タイトルが「514 ~デューラー「祈る手」によせて~」。吉岡の解説、

 

 デューラーの素描「祈る手」を立体にしたものである。黒大理石の力強い存在感と、確かな描写力が見る者を圧倒する。514という数字は、デューラーが「祈る手」を完成させてから現在までの年数だそうだ。514年を経ても「祈り」の姿勢は変わらない。現代のわたしたちは何を祈っているだろうか。

 

 これが黒大理石で作られている! すごい技術だ!

 


 ついで画廊の中央に鏡の立方体「神話の起源」が置かれている。ハーフミラーで作られているという。吉岡の解説を引用する。

 

鉄製のテーブルに乗ったこの箱は、全面が鏡であり、ギャラリーの壁と観客の姿を映すだけのそっけない作品である。一見ミニマルアートのように見えるが、実は、巧妙な仕掛けがしてある。この鏡はハーフミラーである。向こう側が半分透けて見える鏡である。そしてこの箱の中には何重にも重なった鏡が組み込まれているのである。しかしハーフミラーのはずなのに箱の中は見えない。ハーフミラーは鏡の向こう側に光源がないと何も見えず、ただの鏡になってしまうのだ。中を見るには、外の光を極限まで落とす必要があるが、そうすると真っ暗闇になってしまい結局何も見えなくなってしまうのだ。暗闇を内包した作品である。わたしは、鈴木真砂女の怖い一句が脳裏に浮かんだ。

 

蟋蟀や目は見ひらけど闇は闇

 

本人は「理屈っぽい作品になった」と言っているが、「祈る手」と合わせて鑑賞すると、伝統的な手法で作られた彫刻と、このほとんどコンセプチュアル・アートである箱のあまりのギャップに戸惑ってしまうのだが、実はこの飛躍こそが中澤のインスタレーションの特徴であり醍醐味であるとわたしは考える。

祈りは闇の中で行うものである。

 

(私が映り込んでいる)


 そして画廊の奥に、事務室に通じる入口があるのだが、そこにハーフミラーとシルクスクリーンが入口をふさいでいる。タイトルが「それぞれの視点 -壊された日常 隣の日常-」。吉岡の解説を引く。

 

この入口はギャラリーの事務所に続いていて、外光が入るので、文字通りのハーフミラーになる。前に立つと、自分の姿と、向こう側の事務所を同時に見ることになる。この鏡にはシルクスクリーンによる画像がプリントされているが、これは爆撃を受けたウクライナの住宅の写真を印刷したものである。このシルクスクリーンも、中澤自身が印刷した。ウクライナの写真のこちら側にわれわれが立ち、向こう側の「日常」と設置された作品をながめることになる。

 

 事務所の中には、「コルヌ・コピアイ」と題された大理石とブロンズの手の彫刻が置かれている。吉岡の解説を引く。

 

手を組み合わせたところから、花が伸びてきているところである。コルヌ・コピアイというのはギリシャ語で豊穣の角という意味らしいが、組み合わされた手から自然の恵みが溢れ出ているわけなのだが、この手は一人のものなのか、二人の手なのかはわからない。

 

 事務所には小品も10点ほど置かれている。

 

 吉岡の解説は、「吉岡まさみBLOG」から引用した。

http://stepsgallery.cocolog-nifty.com/blog/2022/11/post-d29a2e.html

 

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中澤小智子展「神話と祈り」

2022年11月1日(火)―11月12日(土)

12:00-19:00(土曜日17:00まで)日曜休み

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Stepsギャラリー

東京都中央区銀座4-4-13琉映ビル5F

電話03-6228-6195

http://www.stepsgallery.org