最相葉月『辛口サイショーの人生案内DX』を読む

 最相葉月『辛口サイショーの人生案内DX』(ミシマ社)を読む。最相が読売新聞の「人生案内」の回答者として様々な悩みに答えた応答をまとめたもの。読売新聞の「人生案内」はたしか戦前から続いていて、社会風俗の豊富な事例として研究データとしても活用されているという。

 相談内容は相変わらず、嫁姑問題や、不倫、毒親、近所付き合いや交友関係などなど。。読んでいて暗い気持ちになってしまう。

 

〔問〕 40代の女性公務員。夫との結婚生活に幸せを感じられません。/彼は学歴が低く、給料も安くて不安でしたが、いざとなれば離婚すればいいと思って結婚。子どもができてから不安が不満に変わりました。ママ友との話題が夫の学歴や仕事になると嫌なのでハラハラします。周りの人は注文住宅やタワーマンションなのに、わが家は小さい建売住宅。周りとの格差を感じるたびに、夫のせいで私の価値が下がっていると思ってしまいます。(中略)/どうしたら幸せを感じられるのでしょう。やはり離婚するのがいいでしょうか。

〔答〕 離婚されたらよろしいんじゃないでしょうか。あなたは働いていらっしゃるし、将来も比較的安定した収入を得られますよね。幸せを感じられないどころか、自分の価値を下げてしまうような相手と同じ家で暮らし続けるほど、苦痛なことはありません。何を迷うことがありましょう。(中略)/一つだけ、心に留めておいていただきたいことがあります。目に見えるものだけに価値を置く生き方は、いずれ目に見えるものに裏切られ、破壊されます。サン=テグジュペリの『星の王子さま』で、王子さまはキツネに言われましたよね。「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」って。(中略)/え、まだ読んでらっしゃらない。だとしたらぜひ一度、お読みください。離婚はそれから決めても遅くないと思いますので。

 

〔問〕 大学生の20代男性。容姿や性格が悪いことがコンプレックスになっています。/頭が大きくて形が悪く、顔も不細工、身長も低く、足も短いです。容姿で他人を不快にさせないよう、関わらないようにしてきたため、性格も暗いのです。(中略)/障害や病気をおもちの方に比べると、取るに足らない問題だと思いますが、このままだとどうにかなってしまいそうです。

〔答〕 手紙からわかることが二つあります。一つは、あなたの完全主義。もう一つは、幽霊の存在です。順番に説明しましょう。/完全主義はあなたが使う言葉に見てとれます。悪い、大きい、低い、短い、暗い、不快。どれも極端な表現です。容姿は悪いかよいしかなく、性格は明るいか暗いしかない。みんな容貌も性格もそこそこよくてそこそこ悪いのですが、あなたの世界には中庸が存在しないようです。/あなたの周囲には、幽霊もうようよしています。手紙にはあなたを不快に思う「他人」が何人も登場するのですが、どれも実在しません。幼い頃から人とあまり関わらずに生きてきたからなのでしょうか、どれも想像の中の他人です。あなたはあなたが作った幽霊に脅かされてきたのです。(中略)/あなたの苦痛を和らげるには第三者の力が必要だと思います。苦しむ人の相談にのるのが医療者です。(後略)

 

 読み終えて、世間には悩んでいる人が多いらしいのに驚いてしまう。みんなそんなに悩みを持っているのだろうか。そこでわが身を振り返ってみた。客観的に見たら、私も人生相談に投稿していても不思議はない身の上だった。弟に裏切られ実家は人手に渡り、34年務めた会社を不当にも追い出され、ここ15年ほどは派遣社員を務めてきた。カミさんとも別れ、数年前からは一人住まいをしている。去年は食道がんの手術を受けた。

 今朝の朝日歌壇の短歌が目に留まった。

 

 

名を持たぬ雑種が気楽でいいよなと二匹の保護猫膝に酒飲む   篠原俊則

 

 

 これはほとんど3年前の私の姿だった。その後二匹の保護猫は死んでしまったが、とても幸せな生活だったと思い返している。一見不幸そうな私がこんなに幸福感を感じているのだから、世間の皆さん、悩み過ぎではないだろうか。