車谷長吉の「悩みのるつぼ」の回答(3)

 車谷長吉の「悩みのるつぼ」の回答が面白かった。朝日新聞9月12日から。

 46歳の主婦です。「人の不幸は蜜の味」と言いますが、私は人一倍他人の不幸を望む気持ちが強く、悩んでいます。(中略)
 自分の心の調子が悪いときは、長く病気に伏している友だちに会いたくなります。友だちに会って、「自分は彼女よりは幸せ」と納得したいのです。(後略)

 車谷長吉の回答。

 あなたの相談を読ませていただいて、まず思ったのは、この人は一生救われないな、ということでした。(中略)
 あなたはよいだんなにも、よい子供にも恵まれ、健康でもあるようなので何も問題ない人だと思われますが、「人の不幸は蜜の味」を味わいたいという強い欲求の持ち主だから、まず自分が不幸になって、辛い思いを舐める以外に救いの途はありません。子供が不治の病に罹るとか、夫が事故死するとか。そうなれば、あなたははじめて普通の人間になれるのです。(中略)
 あなたはこれまで一度も、人生の不幸を経験(体験)されたことがないのです。人生の不幸は、病気・貧困・思想的挫折がおもな原因です。あなたがこれから先、もしまっとうな人生を歩まれるとしたら、これらの人生の不幸を乗り越えた時だと思われますが、あなたには人生の不幸を乗り越える力がありません。愚痴死が待っているだけです。それは私には明瞭に見えています。つまり、あなたには一切の救いがないのです。(後略)

 車谷節絶好調!