山本弘のドローイング「風景」


 山本弘のドローイング「風景」、制作年不詳。天地400mm、左右305mm。手前に1本の木が立っており、その後ろに1軒の家がある。家は右手に傾いているようにも見えるが、単に造形的に歪められているのかもしれない。木の枝は強風によって右手に吹き寄せられているように見える。空には雲が描かれ、それも右手に流されているようにも見える。すると、左から強い風が吹いているのだろうか。
 家は妻入りで入口が太く黒い筆触で描かれていて、室内の暗さを際立たせている。入口の上に小さな庇が省略した線で描かれている。右側の軒の裏がこれまた1本の強い線で描かれ、それが家のアクセントにもなっている。板葺きの屋根なのか屋根に石が置かれているようだ。
 木の幹も太い線と細い線を交互に描き、滑らかではないような質感を表している。全体に少ない筆致ながら、ひとつの完成を示していて見飽きることがない。
 不自由な足を引きずりながらの早朝の散歩のときに見た風景を、後日アトリエで再現したのだろう。山本弘の住む長野県上郷村(現・飯田市)にありふれた風景だった。山本は実際に見たものを描いた。ただ、取り上げたのはいつも淋しそうな崩れそうな貧しそうなものだった。しかし、それらを美しく描いた。実際、それらこそが美しく見えたのではないか。貧しくアル中でよれよれの画家が、本当は美しく輝いていることを自覚していたのだろう。
 今年7月に銀座のギャラリーでドローイングと油彩小品展を開くことが決まった。その時この作品も出品する予定。