今年も楽しい新井コー児展が始まった

 東京銀座1丁目のなびす画廊で恒例の楽しい新井コー児展「そろそろ時合い?」が始まった(11月9日まで)。新井は1973年群馬県高崎市生まれ、1996年に多摩美術大学油画専攻を卒業している。なびす画廊では2004年から今回で10回の個展を開いている。







 新井はいつも昭和40年代の女子高生を描いている。銭湯でタバコをくわえながら釣りをしている。そばには久保田の1升瓶が置かれている。タバコを吸いながら日本酒を飲んで銭湯で釣りをするなんて不良女子高生だ。
 廊下で野球をしている女子高生が描かれている。ホウキをバットにしてボールは雑巾らしい。先生が右手の人差し指で廊下を指して、ここで遊ぶなと怒っている。なぜか猫が魚をくわえている。
 橋の欄干に女子高生が5人腰かけている。一人がウクレレをひき、4人がタバコを吸っている。なんと皆缶ビールを飲んでいる。缶ビールのデザインはアサヒのスーパードライだが、「生」の字の代わりに「辛」の字を入れている。ビール会社に気を使ったらしい。
 ピアノを弾いている作品は、ピアノの形が不思議だ。本当にこんな形のピアノがあるのだろうか。ありません、と言われてしまった。ピアノの黒鍵と白鍵の配列に狂いはない。むかし池田満寿夫がピアノを描いたとき、黒鍵と白鍵をデタラメに描いて、パートナーでバイオリニストの佐藤陽子からクレームを付けられたことがあったという。池田は、これは絵だからと主張したが、佐藤は納得しなかったそうだ。どちらの言い分が正しいのだろう。窓の外には洗濯物のショーツとブラが干されている。それを手すりに止まった鳥たちが見ている。
 新井の個展を毎年見ている者は、画面の中にいつも吉田拓郎に関する小道具がさりげなく描かれていることを知っている。ところが今年の個展ではそれがなかった。実は銭湯の絵の中に隠されていた。銭湯の壁の看板をよく見ると、入浴しているハゲの親父の頭に隠れて、「坂崎」という文字と「酒」という文字が見える。おそらくこれが「酒の坂崎商店」の広告なのだ。坂崎商店はアルフィー坂崎幸之助の実家の酒屋の名前だ。坂崎幸之助吉田拓郎の友達だから、これは吉田拓郎へのオマージュなのだ。
 個展にはほかにも女子高生や猫の立体、版画作品なども並んでいる。いつもながら楽しい個展だ。
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新井コー児展「そろそろ時合い?」
2013年11月4日(月)−11月9日(土)
11:30−19:00(最終日は17:00まで)
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なびす画廊
東京都中央区銀座1-5-2 ギンザファーストビル3F
電話03-3561-3544
http://www.nabis-g.com