マリーギャラリーの松山広視展は不思議だ


 東京日本橋浜町のマリーギャラリーで松山広視展が開かれている(8月10日まで)。松山は1974年、三重県生まれ。1999年に名古屋芸術大学を卒業している。1995年に名古屋市市政資料館で初個展、以来名古屋のギャラリーを中心に作品を発表している。とくに名古屋のウエストベスギャラリーコヅカでは1998年からもう10回も個展を重ね、東京ではギャラリイKで2003年から毎年2009年まで個展を行っている。そしてウエストベスギャラリーコヅカの東京支店ともいうべきマリーギャラリーで2011年から個展を行い、今回が3回目になる。
 私はギャラリイKの個展しか見ていなかったが、広いギャラリーの1カ所にいつも小さなオブジェみたいなものを一つだけ展示していた。それがここ何回かの個展では、壁面に直径数ミリの赤い点を1個だけ描くという展示になっていた。広いギャラリーに小さな点が1個だけなのだ。
 松山からもらったDMの地図をたよりに都営地下鉄浜町駅からマリーギャラリーへ向かった。ギャラリーには松山のキャンバスに描かれた作品が展示されていて驚いた。キャンバスに1個またが数個の小さな点が描かれている。
 ギャラリーのホームページから、

地と図の関係は、にわとりと卵の問題と似ている。地と図は、作品上の何を主として認識するかで変化する。注視されたものとその周りとで新たな関係が作られる。
松山のこれまでの作品では、図となるものには描く際の筆跡を出し、色の混ざり具合や偶然にできる形を重視していた。しかし今回の展示では、一枚のキャンバスを地としてその上に図を描くことで、その関係性を明確に抽出した。自分の痕跡を極力消して制作することにより、地と図をより単純化させている。
本展は、大小のキャンバス16点で構成される。そのなかには、キャンバスの中に図が2つ以上配置されている作品もある。そして、展覧会場を地とみれば、キャンバス自体もまた図ともなり得る。





(よく見ると小さな黒い点が見える)


 松山のタブローを初めて見た。ギャラリーの壁面に小さな点を1個だけ描いていたインスタレーションと、今回のキャンバスを使った作品にコンセプトの違いはないだろう。これらの作品の意味は何なのか。松山のホームページに作家自身のテキストが書かれていた。

絵画における余白とは絵画を取り巻く環境である。その環境は絵画の意味を決定づけるもので、その絵画がどう見えるのかを決めてしまう。私にとって余白(私の言う絵画を取り巻く環境)は絵画を構成するのに不可欠な要素となっており、そこに何が描かれているのかではなく、どう見えているのかが重要なのです。余白とは間のことであると思う。間であるということはある物と物の間ということであるから、2つの物がそこにあるということになる。1つは絵画、もう1つは絵画以外の世界ということになる。この場合、絵画以外の世界が何かが問題となり、絵画を構成させるのです。間とは無であり無とはあるゆる概念から離れ物事を注視することであり、私は私の行為(この場合絵を描くこと)によって無をつくり出しこの世を取り巻くあらゆる有の世界から抜け出そうとしているのです。そして、その先には私自身の行為だけが残っているのです。

 松山は余白を作る。余白は間であり、間とは無であり、無とはあらゆる概念を離れ物事を注視することだとある。松山は絵を描くことによって無をつくり出し、有の世界から抜け出そうとする。その先に作家自身の行為だけが残っている、と。
 松山のテキストを要約してみたが、私にはよく分からない。ただ今までのギャラリイKの展示と今回の個展を見る限り、松山が点を打つことによって空間をつくり出そうとしていることは想像できる。点を打つことによって、何もない空間が顕在化するのだ。ゲシュタルトで言う「地」が顕在化し、それによって空間が主題化されるということが分かる。本来隠れている空間を主題化する、そのことを「無をつくり出す」とと言っているのだろうか。無=顕在化した空間=松山の行為=松山の作品、という図式でよいのだろうか。
 ちょっとだけ「現象学的還元」のことを連想した。
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松山広視展
2013年7月26日(金)−8月10日(土)
13:00−19:00(木・金・土 開廊、日〜水 休廊)
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マリーギャラリー
東京都中央区日本橋浜町3-33-7
電話03-6321-3442
http://mariegallery.com/home_j.html
松山広視ホームページ http://matsuyamahiroshi.art758.com/ja/
ギャラリーへのアクセス:
東京メトロ半蔵門線水天宮前駅5番出口から徒歩7分
東京メトロ日比谷線/都営浅草線 人形町駅A1番出口から徒歩10分
地下鉄都営新宿線浜町駅A2番出口から徒歩4分