辻惟雄『奇想の江戸挿絵』(集英社新書)を読む。図版が豊富で見応えがある。「あとがき」から、
本書の企画は、北斎以外の絵師による、ほとんど知られていない挿絵の傑作をどこまで掘り出せるかというところから始まった。そこで、編集者とともに奮闘がはじまった。図書館に通って読本・合巻に目を通した結果、北斎以外にも見どころのある挿絵を少なからず見つけることができた。
しかし、やはり北斎を外すわけにはゆかなかった。やってみてわかったことだが、北斎の挿絵は、豊国、豊広ら歌川派一門をはじめ、同時代の挿絵画家のそれに比べるとダントツに優れている。まるで彼らが北斎のひき立て役のようにさえ見える。「世界の北斎」では相手が悪かった。あらためて、北斎の挿絵画家としての力量と豊かな創意に脱帽せざるをえない。
以前、外苑前の画廊主が、北斎は500年に一人現れる天才だと言った。500年はともかく江戸時代の画家たちの中で頂点をなす一人だろう。浮世絵師では歌麿が少し遅れて続いている。つぎの2点の図版はいずれも北斎の絵だ。説明は本書のキャプション。
図77 迫力ある怪僧朦雲(もううん)の出現。『水滸伝』の発端、伏魔之殿の爆発のイメージが重ねられている。右上で団扇(うちわ)を持つのが琉球王。左上、忠臣毛国鼎(もうこくてい)が弓で朦雲を狙う場面はこの後の話。爆発で岩が飛び散り、人が吹っ飛ぶ一瞬の出来事が異時同図法的手法で描かれる。(『椿説弓張月』)
図57 ヤシガニに似た巨大蜘蛛。巣の中に見える多数の骸骨が人喰い蜘蛛の威力を暗示。(『そののゆき』口絵)
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見応えのある、読み応えのある新書だった。辻惟雄はほかに『奇想の系譜』『奇想の図譜』(ともに、ちくま学芸文庫)という優れた著書がある。
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