日本橋高島屋S.C. 本館6階 美術画廊Xの重野克明展を見る

未亡人

 東京日本橋高島屋S.C. 本館6階 美術画廊Xで重野克明展「或る未亡人の版画コレクション」が開かれている(11月20日まで)。重野は1975年千葉市生まれ、2003年に東京藝術大学大学院修士課程美術研究版画専攻を修了している。主に77ギャラリーで個展を開いているが、高島屋美術画廊Xや養清堂画廊でも発表を繰り返している。



 重野克明は物語意を描いてきた。だがそれは絵物語や小説の挿絵などのような劇的な物語ではなく、ある種私小説のような物語だ。今回もタイトルの「或る未亡人の版画コレクション」に絡めてパンフレットに次のような文章を載せている。

「僕が死んだらこれを売って暮らしなさい。」生前版画家の夫は言った。〇〇さん、〇〇画廊に持って行けば良いお金になるからと鳩のイラストの黄色い菓子缶を妻に渡した。パンパンになったその菓子缶には大量のスケッチや版画が詰め込まれていた。なかにはレシートの裏に描かれたものまで。こんなものが本当に売れるのかしらと途方に暮れるお盆明けの未亡人。

 

 以前ある画商が有名な画家Nの雑誌のカットの原画などを売ろうとその画家を訪ねたことがあった。Nは若い頃雑誌にカットなどを多く描いていたことがあったので、カットやドローイングがたくさん残っているのではないかと考えたのだ。しかし、すでにNの住む区立美術館の学芸員が来てそれらを寄贈させた後だった。美術館にカットやドローイングを寄贈したNは間違っていた。それらを収蔵しても美術館が展示する機会はほとんどないだろう。しかし、画商が販売したら多くのファンが買い求めるだろう。作品を1点でも持てばその画家のファンになると聞いた。たとえそれが偽物であっても。ピカソは作品数が多いので世界中にファンがいる。たくさんの作品を描いてそれを多くの人たちに持ってもらうことは重要なのだ。

 上記の未亡人のエピソードはもちろんフィクションだ。だが、虚実のあいまいなところで重野は興味深い物語を作品のテーマにしている。私にとって見逃せない作家の一人だ。

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重野克明展「或る未亡人の版画コレクション」

2023年11月1日(水)―11月20日(月)

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日本橋高島屋S.C. 本館6階 美術画廊X

電話03-3211-4111(代表)