映画「大鹿村騒動記」を見た。主演の原田芳雄が先日急死し、それが話題になったのかヒットしているという。だが派手な映画ではない。
大鹿村は長野県の南部に実在する山村だ。岩塩が採れ鹿が舐めに来るとかでこの名がある。日に何本かのバスが走っているくらいの僻村だ。私の生まれ育った喬木村が大鹿村の隣の隣にあるので多少は知っている。そんなことでこの映画も見たのだった。
大鹿村では300年続く大鹿歌舞伎が行われている。主人公の原田芳雄は鹿肉を食べさせる食堂を経営し、さらにこの歌舞伎の役者だ。冒頭で突然二人の男女が現れる。18年前に駆け落ちして原田のもとを去った原田の妻(大楠道代)と友達(岸部一徳)だった。大楠は認知症になっていて原田のことも分からないし、蚊取り線香を食べ物と思ってしまう。だから返すと言って岸部が連れてきた。そんな3人の関係が歌舞伎の上演と絡めて進んでいく。
それなりに面白かった。少し不満を述べると、方言が使われてなかったのは我慢するとして、大鹿村の俯瞰シーンがなかった。大鹿村は私の村に倍加して僻村なのだ。空中からの俯瞰シーンがあれば大鹿村がどんなに山奥の村で、そこで暮らすことがいかに大変なことか、まず観客に分かるのに。大楠の認知症の表現も中途半端なものだった。また認知症は最後まで治ることはないのだが、ほとんど何も解決しないで終わりを迎える。
近隣の村と言いながら大鹿村へ行ったのは2度に過ぎない。当時は知らなかったが、「気」が異常に強いことで有名な分杭峠がある。そういえば映画の中でも36年の災害で55人が亡くなったと言っていたが、これは昭和36年6月の集中豪雨で、36.6災害と言われている。今年がちょうど50年目で、飯田市では記念式典があったらしい。当時の大鹿村はあちこちで山が崩れ大変な被害だった。
山本弘もこの時の飯田市を流れる野底川の濁流のすごさを繰り返し描いている。映画の話がずれてしまった。
原田芳雄が亡くなった。初めて見たのが30数年前の「竜馬暗殺」、監督が黒木和雄でモノクロ映画。原田も若くカッコよかった。暗殺されたシーンで血が黒く流れていた。昔のことなのにどこの映画館で誰と見たかまで憶えている。