開高健「人とこの世界」を図書館で借りてきて読み始めたら面白くて、本屋へ行ってちくま文庫を買ってきた。作家たちとの対談集だ。広津和郎、きだみのる、大岡昇平、武田泰淳、金子光晴、今西錦司、深沢七郎、島尾敏雄、古沢岩美、井伏鱒二、石川淳、田村隆一らと、この順序で対談している。そして古沢岩美まで読んだところで、過去に読んでいるかもしれないと思った。日記を検索すると、去年の8月に読んでいて、しかもブログにまで紹介していた。何という忘却力だろう! 悲しくなってしまう。ちなみに去年読んだのは中公文庫だった。
気を取り直して、感心したくだりをちょっとだけ引用する。
明晰なイメージをひらいてみせてくれた人が戦後の文学界に何人かいる。それは大岡昇平、三島由紀夫、長谷川四郎、高杉一郎といった人たちの作品である。
解説を佐野眞一が書いている。それがいい。
開高健の代表作をあげろと言われれば、小説では『夏の闇』、評論ではこの『人とこの世界』をためらいなくあげる。評論を小説以外の文芸と広義に解釈すれば、この作品は、開高の仕事では時に小説以上の成果をあげてきたノンフィクションの最高傑作といってよい。
開高のノンフィクションというと、『ずばり東京』や『ベトナム戦記』、『オーパ!』の世評が高いようである。だが私の見るところ、『人とこの世界』が描き出した深々とした世界には及ばない。
(中略)
作家が作家を書くとき、その作家の最も本質的な部分がいやでも露光する。真剣勝負の白刃の閃きが、音がたつように見えるからである。
これは開高健作品の最上の一冊であるばかりか、戦後人物ノンフィクションの記念碑的傑作である。
・開高健「人とこの世界」〜岡本太郎、中井恒夫(2009年8月28日)

- 作者: 開高健
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