朝日新聞の「ニューヨーク特派員メモ」に「虫に弱い超大国」の題で田中光記者が書いている(9月22日)。
今年、自宅アパートのエレベーターで、張り紙をよく見かけるようになった。「○曜日に、○階から○階まで、駆除作業を実施します」というものだ。管理人に「とうとう出たのか」と尋ねると、「いや、やつに対する予防措置ですよ。心配はいりません」と笑顔が返ってきた。
「やつ」とはトコジラミのことだ。体長8ミリ程度で人の血を吸うこの虫が、全米の都市部で爆発的に増えている。
ニューヨークでは昨年1年間に3万を超す問い合わせが市役所に殺到。某有名下着店や五番街近くのスポーツメーカーの旗艦店は、数匹見つかっただけで一時閉店に追い込まれた。虫が出た家の住人は、友達の家に呼ばれず、強迫観念におびえた人が精神科医に駆け込むなど、半ばパニック状態になっている。
ここ40年ほど目立たなかったが、殺虫剤の規制が強化され、虫側も抵抗力をつけた、というのが復活の原因らしい。政府も巻き込んで、駆除対策が検討されているが、即効薬は見つかっていない。(後略)
トコジラミはナンキンムシ(南京虫)とも呼ばれる。安富和男・梅谷献二「原色図鑑 衛生害虫と衣食住の害虫」によれば、トコジラミの原産地は中東らしく、イギリスへはシーザーの軍隊が持ち込んだと推論されている。軍隊の兵舎を通じて世界各地へ広まったという。昼間は壁の隙間などにひそみ、夜出てきて人を吸血する。首筋など露出した部分が狙われやすいらしい。
同書のコラム「トコジラミを退治する植物」から、
バルカン地方の民間伝承にたいへん興味深いトコジラミ退治法がある。長谷川仁氏の御教示によれば、インゲン類(マメ科)の葉をベッドの下の床に5〜6枚まいておくと、葉にたくさん生えている釣針のような毛にトコジラミの脚がひっかかり、もがいて抜こうとするほど附節の節間膜に刺さって動けなくなってしまうという。
この長谷川仁氏は日動画廊の創始者とは別人の昆虫学者で、カメムシの専門家だ。そしてあの有名な銅版画家長谷川潔の甥にあたる人でもある。長谷川潔の国際的評価はきわめて高く、銅版画1点で数百万円もする。ざっと駒井哲郎の10倍だ。トコジラミとは何の関係もないが。
さて、このトコジラミ騒動は遠くアメリカだけの話だろうか。「トコジラミ」をGoogleの画像検索で調べれば、えぐい写真がわんさか見られるだろう。
- 作者: 安富和男,梅谷献二
- 出版社/メーカー: 全国農村教育協会
- 発売日: 1995/03
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