新潮社の「とんぼの本」シリーズで「画家たちの『戦争』」を読む。先の大戦で日本人画家たちが描いた戦争画について紹介されている。もともと雑誌「芸術新潮」1995年8月号の「戦後50年記念大特集 カンヴァスが証す「画家たちの『戦争」」の「戦争画(戦争記録画)」にかかわる部分を再編集・増補したものだという。今年の7月にとんぼの本として発行された。雑誌に特集されて、単行本になるまでなぜ15年もかかったのか。おそらく藤田嗣治未亡人の存在が単行本化を許さなかったのだろう。藤田の作品の印刷物への掲載を、それが展覧会の図録でも許さなかったという。その未亡人が昨年92歳で亡くなった。新しい著作権継承者が単行本化を許可したのだろう。
戦争画を多くの画家たちが描いている。小早川秋聲、中村研一、鶴田吾郎、宮本三郎、小磯良平、田村孝之介、川端龍子、茨木杉風らが紹介されているが、圧倒するのはやはり藤田嗣治だ。「アッツ島玉砕」「サイパン島同胞臣節を全うす」「哈爾哈(ハルハ)河畔之戦闘」「南昌飛行場の焼討」「神兵の救出到る」いずれもすごいが、「アッツ島玉砕」の迫力は特別だ。折り重なる兵士の死体の上で銃剣を振りかざしてまだ戦闘が続いている。
戦争画は戦後アメリカ軍が接収し、その後日本に対して「無期限貸与」という形で返還された。現在東京国立近代美術館に収蔵されており、数点ずつ常設展で展示されている。
このように数点ずつでなくまとめて見せてほしい。本書ももっともっと戦争画をたくさん掲載してほしかった。「戦争画画集」なんて発行されればもっといいのに。
河田明久の「戦争美術とその時代・1931〜1977」と題された論文は力作で教えられるところが多かった。良い本が発行されたと思う。
- 作者: 神坂次郎,河田明久,丹尾安典,福富太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: 単行本
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