山本弘の作品解説(19)「日だまり」

 2008年12月28日にこの「日だまり」を紹介しているが、今回それを撮影したポジフィルムが見つかったので、改めて再録する。以前はポジフィルムをカラープリントしたものからスキャンしていた。ポジを直接スキャンした今回の方が鮮明になっているはずだ。


「日だまり」、油彩F50号(91cmx116cm)

 制作年不明。1972年の日本アンデパンダン展に出品された。当時山本弘42歳、抽象的になる前の中期の作品だ。山本としては大きな50号の作品に子どもを一人だけ描いている。冬の飯田は寒く、タイトルの日だまりが恋しい。これは男の子だろうか、女の子だろうか。これを描いた頃、山本には子どもはいなかった。(と、以前書いたが、前年1971年に一人娘の湘ちゃんが生まれて、当時1歳だった)。俺は白がうまいんだと言っていたが、本当にそのとおりだ。背後の壁にまぎれて「Hirossi」のサインが記されている。
 アンデパンダン展で見たという見知らぬ人から手紙がきて、10万円で買いたいと言われた。当時私の初任給が43,000円だったから、10万円は現在の50万円くらいか。山本の返事は、「俺の絵は売り物じゃない」だった。山本はとにかく貧乏をしていたので、断ったと聞いて奥さんが本当に悲しかったと言った。売り物ではない絵はその後おそらく只みたいな値段で手放したか、酒代か絵の具代と交換されたはずだ。現在どこにあるか不明。ぜひ、もう一度見てみたい。


 (所蔵先不明)