新聞に載っている岩波書店の今月の新刊の広告に、岩波新書で「ノモンハン戦争」というのがあった。あれってノモンハン事件じゃなかったっけ、くらいに思ったがとりたてて読みたいとは思わなかった。でも一応著者を確認したら田中克彦だった。モンゴル語が専門の言語学者で、田中のどの本も興味深く読んできた。ほとんどすべての著書を読んできただろう。そういう著者は、ほかにスパイ小説のジョン・ル・カレ、ポーランドのSF作家のスタニスワフ・レム、作家の金井美恵子、画家でエッセイストの野見山暁治など数える程度だ。
仮にノモンハンだって、田中克彦が書いているのなら読むに決まっている。そしたら、朝日新聞の6月25日夕刊に「ノモンハン戦争とは何だったのか、奪われた民族統合の夢」と題された田中克彦の署名原稿が掲載された。
ここに1枚の写真がある。左に見えるのは満洲国の、右はモンゴル人民共和国の国旗である。撮影された日付は、1935年6月3日、ノモンハン戦争が発生する4年前のことである。
この年の1月、両国国境付近のハルハ廟で軍事衝突があった。満・モ双方は代表団を出して、満洲国のソ連との国境に近い鉄道駅マンチューリに会し、国境衝突をこれ以上進展させないようにとの目的で、最初の会談に入ったときの記念写真である。
しかし満洲国、モンゴル双方の後ろに控える日本の関東軍とソ連にとっては、こうした接触は許しがたく、
最初に行動をとったのは関東軍である。すなわち、会談がはじまった翌36年4月、憲兵隊はリンシェン以下、興安北省要人6人に「通敵」行為が発覚したとして逮捕し、銃殺してしまった。
その翌年にはソ連が思い切った措置に出た。まず、モンゴル側代表団長サンボーを解任した後に銃殺し、ダンパもそれに続いた。最後まで残っていたドクソムも、41年に処刑された。
ノモンハン戦争は、このようにして、日・ソがそれぞれの側の指導者たちの首をはねた上で遂行されたのである。
田中克彦の著書でつまらなかったのは1冊もない。いままで何度もブログで取り上げてきたのだった。
・田中克彦の主な著書
「言葉と国家」(岩波新書)
「ことばとは何か」(講談社学術文庫)
「エスペラント」(岩波新書)
「言語学とは何か」(岩波新書)
「チョムスキー」(岩波現代文庫)
「『スターリン言語学』精読」(岩波現代文庫)
「言語からみた民族と国家」(岩波現代文庫)
「言語の思想」(岩波現代文庫)
「クレオール語と日本語」(岩波セミナーブックス)
「草原の革命家たち」(中公新書)
「ノモンハン戦争」(岩波新書)
- 作者: 田中克彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/06/19
- メディア: 新書
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