新聞の書評の力、そして金井美恵子

 読売新聞の書評欄に月に1度「空想書店」という企画が掲載される。毎回別々の作家などが書店の店主になり自分の選んだテーマに沿って、お勧めの本を並べるというものだ。2月3日は嵐山光三郎が店主をして「猫」をテーマに選書していた。それを見ると、次のようになっている。
村松友視アブサン物語」(河出文庫)絶賛している!
内田百間ノラや」(中公文庫)
金井美恵子「タマや」(河出文庫
浅生ハルミン私は猫ストーカー」(洋泉社
武田花写真集「猫・大通り」(現代書館
桜沢エリカ「シッポがともだち」(集英社
 これを見て私も「アブサン物語」「私は猫ストーカー」を読んだ。そして最近書店に河出文庫の「タマや」が平積みされているのを発見した。奥付を見ると初版が1999年で、今年の3月11年ぶりにこの3刷りが出たことになる。ずっと版元で品切れだったのだろう。それが現在平積みということは、読売新聞のこの記事によると考えるのが妥当だろう。まだまだ新聞の書評の影響力が失われてないのだ。
 それで私もこの金井美恵子「タマや」を読み返した。ところが私が持っているのは講談社文庫で初版が1991年だった。おそらく売れなかったので講談社が絶版にし、それを河出書房が文庫にしたのだろう。どうしてこんなに良い本が売れないのか。これは、目白に住む女性の小説家とその周辺を書いているシリーズ「文章教室」「タマや」「小春日和」「道化師の恋」の1巻で、いろいろ仕掛けがしてあって読んでいて楽しいし、文体がすばらしい。好きな作家の一人なのだ。表紙の写真がアンナ・カリーナで、これは先日読んだ「友よ映画よ、わがヌーヴェル・バーグ誌」の山田宏一が撮ったものだ。金井美恵子アンナ・カリーナと好物が2つ並んでいて嬉しいが、アンナ・カリーナゴダールを棄てて、ゴダールがパリ中を探し回ったエピソードも紹介されていてちょっと悲しい。