団鬼六「最後の愛人」を読む

最後の愛人
 元来SMに興味がなかったので団鬼六の小説を読んだことがなかった。それが「最後の愛人」は良い作品だと聞いたので初めて団鬼六を読んでみた。
 作家が70歳のときに出会ったキャバクラ嬢さくら23歳に惚れて彼女を愛人にする。奥さんも公認し、作家仲間や編集者たちにも紹介する。マンションに住まわせたり車や高価な和服を買い与える。しかし作家はもう性的に不能で抱くことができない。それを試みることもしない。プラトニックな関係のまま銀座のクラブや新宿の飲み屋を連れて歩いている。週3回は作家の愛犬の散歩をしてもらってもいる。しかしある時さくらは突然自殺してしまう。酒と睡眠薬をたくさん飲んで。遺書が「先生ごめんなさい。ごめんなさい。本当に先生を愛してましたーーさくら」だった。自殺の理由は誰にも分からない。
 作家は深く嘆き悲しんでいる。それはよく分かる。それがこの連作短編のテーマだ。不思議なことに作家の感情はよく分かるのだが、愛人さくらのことがちっとも分からないのだ。団鬼六は自分のことしか書いていない。肝腎の他者さくらのことが何も書けていない。団鬼六が単なるSM作家に終わった理由がよく分かったのだ。