ポーラ ミュージアム アネックスの「ポーラ ミュージアム アネックス展Vol.2」を見る

 東京銀座のポーラ ミュージアム アネックスで「ポーラ ミュージアム アネックス展Vol.2」が開かれている(4月14日まで)。今回は菊池奈緒と水永阿里紗、鶴見朋世の3人が参加している。

 

 菊池奈緒は1988年栃木県生まれ、2011年多摩美術大学絵画学科卒業、2013年同大学大学院修士課程修了、2023年カールスルーエ芸術アカデミーを卒業している。


 菊池はドイツを中心に公共空間を歩きながらイメージを収集し具現化している。特に窓やフェンスといった空間を隔てる境界線に焦点を当てて制作してきた。これらのモチーフは別の世界へ通じる「開かれた入口」を暗示し、遠い場所への憧れを反映しているという。

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 水永阿里紗は1984広島県出身、2009年東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業、2014年同大学大学院美術研究科博士課程美術専攻油画(壁画)研究領域博士号を取得している。

メメント・モリ

「第九」

 水永はドイツでステンドグラスを研究している。「メメント・モリ」はアンティークガラスにエッチング「第九」はフロートガラスにスクリーン印刷したもの。

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 鶴見朋世は1994年三重県生まれ、2018年多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイル専攻を卒業し、2023年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートテキスタイル専攻を修了している。


 鶴見は、「日常に漂う、感覚的で曖昧な断片から流れる時間やリズムの美しさをテキスタイルとして紡いでいる」という。

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「ポーラ ミュージアム アネックス展Vol.2」

2024年3月15日(金)―4月14日(日)

11:00-19:00(会期中無休)

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ポーラ ミュージアム アネックス

東京都中央区銀座1-7-7 POLA銀座ビル3F

電話050-554-8600(ハローダイヤル)

https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/

 

 

ササイ・ファイン・アーツの重野克明・三宅玄朗二人展を見る

 東京銀座のササイ・ファイン・アーツで重野克明・三宅玄朗二人展「ルールブック」が開かれている(4月13日まで)。二人は東京藝術大学でバッテリーを組んでいたとう。

 

 重野克明は1975年千葉市生まれ、2003年に東京藝術大学大学院修士課程美術研究版画専攻を修了している。主に77ギャラリーで個展を開いているが、高島屋美術画廊Xや養清堂画廊でも発表を繰り返している。


 今回重野はすべて野球をテーマに描いている。何を描いても重野は楽しい。ある重野の先輩画家が、彼は私小説だからと言っていた。

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 三宅玄朗は1974年愛知県生まれ、2002年に東京藝術大学大学院修士課程美術研究科油画技法材料室を修了している。ギャルリー志門やアートもりもと、ササイ・ファイン・アーツなどで個展を開いている。

「ぼくのすきなせんせい」

 三宅玄朗はモノクロのちょっと怖いような絵と、ボテロばりの太った女性を描いている。その太った女性を描いた作品のタイトルが「ぼくのすきなせんせい」だから、本当にボテロが好きなんだろうなあ。埼玉県立近代美術館の前庭にボテロの大きな彫刻が置かれていたのを思い出した。

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重野克明・三宅玄朗二人展「ルールブック」

2024年3月29日(金)―4月13日(土)

10:30-18:30(日曜・月曜休廊)

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ササイ・ファイン・アーツ

東京都中央区銀座3-7-20 銀座日本料理会館2階

電話03-5159-7402

https://sasaifinearts.com/

 

 

 

 

ギャラリーSAOH & TOMOSのナオミ・ヴァン・ホルバット展を見る

 東京神宮前のギャラリーSAOH & TOMOSでナオミ・ヴァン・ホルバット展「White Thread/白糸」が開かれている(4月10日まで)。ホルバットは1970年英国生まれ、1989-1994年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで学んでいる。2001―2003年に日本政府の研究生として東京藝術大学で油絵を学んでいる。ロンドンで個展を開いてきたほか、2001年にはギャラリー砂翁&トモス(本ギャラリーの前身)で個展を行っている。

「White Thread/白糸」

「Freeze/凍結」

「Blackbird/黒歌鳥」


 画廊の壁面に左右366cmという大きな油彩作品が展示されている。これが展覧会のタイトルにもなった「White Thread/白糸」で、「Freeze/凍結」や「Blackbird/黒歌鳥」という油彩作品の他に版画作品(モノタイプ)が並んでいる。

 いずれも極めて禁欲的な表現だが、強い主張が見えている。「White Thread/白糸」は4枚のパネルから構成されているが、1枚のパネルの天地が少し小さくて、右端の太いストライプとともに強いアクセントになっている。

 画廊の方の話では、版画作品は一見コラージュのように見えるが、まぎれもなく版画でしかもモノタイプだという。

 訪ねたとき、ちょうど午後の日が当たっていて、「Freeze/凍結」という作品の一部が日差しで欠けてしまった。

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ナオミ・ヴァン・ホルバット展「White Thread/白糸」

2024年4月1日(月)―4月10日(水)

11:00-18:00(日曜休廊)

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ギャラリーSAOH & TOMOS

東京都渋谷区神宮前3-5-10

電話03-6384-5107

http://www.saohtomos.com

 

 

ギャラリー檜B・Cのさとう陽子展を見る

 東京京橋のギャラリー檜B・Cでさとう陽子展「生きられる未完」が開かれている(4月13日まで)。さとうは東京生まれ。1981年に日本大学芸術学部美術学科を卒業している。1986年から毎年様々なギャラリーで個展を開いて活発に活動している。


 さとうの作品について3年前に書いたことを再録する。

 ゲシュタルトでいう図と地をさとうの絵画に当てはめてみると、図と地で成り立っているように見えて、その地がさらに下位の地に対して図となっているように見える。地の複層性というか図の複層性というか、今風に言えばレイヤー構造をなしていると言ってもいいかもしれない。複雑な構造とマチエールの特異さがさとうの特徴だろう。中心がないことでどこかオールオーバーにも近く、またそれを否定しているようにも見える。さとうの絵画は安易な定義を拒んでいる。それが魅力とも言えるのではないか。

 今回さとうは写真作品を2点展示している。さとうの写真作品は一層分からない。

 なお、4月6日(土)16:00~パフォーマンスを行うとのこと。

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さとう陽子展「生きられる未完」

2024年4月1日(月)―4月13日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)日曜休廊)

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ギャラリー檜B・C

東京都中央区京橋3-9-9 ウィンド京橋ビル2F

電話03-6228-6361

http://hinoki.main.jp

 

木田元『現象学の思想』を読む

 木田元現象学の思想』(ちくま学芸文庫)を読む。発行が2000年といささか古く、「ちくま学芸文庫」のために編集したものだとある。内容は現象学に関する6篇の論文を集めたもの。一番古いのは1964年に発表したもので、新しいのも1980年といささか古いのはやむを得ない。

 ただ木田元現象学に関する論文を集めたものなので、大変興味深い内容だ。最初に「現象学とは何か」という70ページ近い文章が置かれているが、これは『講座・現象学① 現象学の成立と展開』(弘文堂)という全4巻の総序として書かれたもの。まさに現象学の要約となっている。ただ、木田元岩波新書のために書いた『現象学』に比べるとこちらは新書と違って難しい。

 2番目の「フッサールハイデガー」は副題が「ブリタニカ論文草稿群をめぐって」とあり、フッサール『ブリタニカ草稿』(ちくま学芸文庫)に関する注釈となっている。『ブリタニカ草稿』はイギリスの百科事典『ブリタニカ』の求めに応じてフッサールが「現象学」の項目を執筆したもの。フッサールは当時親しくしていたハイデガーに協力を依頼し、フッサールの書いた第1稿をハイデガーが書き直し、それをまたフッサールが書き直し、最後にフッサールが書いた第4稿を決定稿としたもの。ただ長すぎたので『ブリタニカ』ではたしか半分以下に縮小して英訳したものを採用した。その4稿に渡る草稿をすべてまとめて『ブリタニカ草稿』としてちくま学芸文庫から出版されている。ここにはフッサールハイデガー現象学をめぐっての交渉が記されている。

 ついで「メルロ=ポンティと構造の概念」と「メルロ=ポンティと「制度化」の概念」が並べられている。最後の「現象学弁証法」と併せて3篇がメルロ=ポンティに関する考察になっている。メルロ=ポンティと並び称されるサルトルに関しては、「サルトルの場合、私には『存在と無』から『弁証法的理性批判』への展開に、実践的にはともかく理論的首尾一貫性が認めがたいように思われるので、ここでは採り上げない」と注にある。

 木田元メルロ=ポンティ論ともなっていて、私には興味深い読書だった。(かなり難しかったけれど)。

 

フッサール『ブリタニカ草稿』(ちくま学芸文庫)は現在品切れ? 絶版? になっていて、アマゾンの古書では数千円の値段が付いている。筑摩書房はぜひ増刷してほしい。