MEMの三島喜美代展を見る

 東京恵比寿のナディッフアパート3階のMEMで三島喜美代展が開かれている(7月5日まで)。三島は何と1932年生まれ、今年88歳になる! その年齢が信じられないくらい若々しいインスタレーションだ。画廊のホームページから、

三島喜美代が長年取り組んできた作品の主題は、高度産業化社会が生み出す膨大な製品、日用品と情報媒体が生み出す「ゴミ」、そして処理能力の限界からそれに飲み込まれつつある現代の社会、その結果としての環境破壊と生態系への影響などに関係があります。陶で制作された本物と見紛うばかりの新聞や果物の箱などが三島作品として有名ですが、陶のみならず鉄、パラディウム、金などの金属材質、セメント、煉瓦、高熱で産業廃棄物を処理することで生まれる溶融スラグなど、様々な工業素材を使った立体作品とインスタレーションにその本領があります。
本展では、三島が長年アトリエに寝かせていた産業廃棄物やそれを加工した素材等で構成される新作のインスタレーションを中心に展示いたします。

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 画廊にはスクラップを集めたオブジェや、紙の束を模したアルミ合金の立体、古新聞を束ねたものや袋に詰め込んで壁に吊るしたものがある。古新聞の束の上に置かれた「取扱注意」のタグのみ陶製だという。壁には土を固めたレリーフ状の作品も掛かっている。驚くべき創作力と批判力だ。
 本来の会期は4月12日までだったが、コロナで中断したので今週いっぱい5日まで延期された。JR恵比寿駅から渋谷川に沿って徒歩5分くらいのところにある。
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三島喜美代展
2020年3月14日(土)-7月5日(日)
13:00-19:00、木金土日のみ開廊
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MEM
東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 3F
電話03-6459-3205
http://mem-inc.jp/

 

トキ・アートスペースのいぐちなほ展「n次元―描かれない形と色―」を見る

 東京外苑前のトキ・アートスペースでいぐちなほ展「n次元―描かれない形と色―」が開かれている(7月5日まで)。いぐちは東京出身、1996年に学習院大学文学部哲学科を卒業している。2011年このトキ・アートスペースで初個展、以来ほぼ毎年同じ画廊で個展を続けている。
 今回同じ大きさの小さなキャンバスを並べているが、みな撓んで枠より少し中央が凹んでいる。そして一部が棒状や矩形に飛びだしたり凹んだりしている。キャンバスは白く塗られている。
 タイトルの通りレリーフ状に飛びだし凹んだ形が作品を構成している。そのことによって一部が強く光りまた陰を作っている。描かないで形を生み出し色の変化を作っている。

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 いぐちなほのホームページを見てみる。

キャンバス上に、形と色を描かずに表現してみることで、n次元=2次元(絵画)でも3次元(立体)でもないもの を目指してみる。

 ああ、やっぱりそうだったのか。
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いぐちなほ展「n次元―描かれない形と色―」
2020年6月29日(月)-7月5日(日)
12:00-19:00(最終日17:00まで)水曜日休廊
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トキ・アートスペース
東京都渋谷区神宮前3-42-5
電話03-3479-0332
http://tokiart.life.coocan.jp/

 

サイト青山の井上活魂「吊り書展」を見る

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 東京青山のサイト青山で井上活魂「吊り書展」が開かれている(7月5日まで)。井上は2年前にもここで「平成の貝塚展」をやっていた。ごみを画廊中にぶちまけて貝塚に見立てていた。
 今回はタイトル「吊り書展」とDM葉書の写真から、何かにぶら下がって逆立ちしながら書いた書を画廊の壁中に展示したインスタレーションのようだ。白髪一雄は同じくぶら下がって足で描いていたが、井上は自分が逆立ちして手に筆を持って書いている。相変わらず過激な作家だ。井上の言葉。

常日頃から、不自由さというのは僕の作品の武器であり、ありがたいものなのである。
そんなことから、逆さまになって、字(日常の言葉)を書いてみたくなった。
書いていたら気分が悪くなり、子供の頃のイジメの苦しさを思い出した。
職場で、国家は庶民を、強者は弱者を・・・吊り下げて・・・棺桶に入る前までイジメは続く 。

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 サイト青山は地下鉄銀座線・半蔵門線大江戸線青山一丁目駅3番出口または5番出口から徒歩5分、タワーマンション青山ザ・タワーの裏手にある。
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井上活魂「吊り書展」
2020年6月30日(火)―7月5日(日)
11:00-19:00(最終日17:00まで)
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サイト青山
東京都港区南青山2-7-9
電話03-3423-2092
http://site-aoyama.air-nifty.com/

 

山梨俊夫『絵画逍遥』を読む

 山梨俊夫『絵画逍遥』(水声社)を読む。山梨は長く神奈川県立近代美術館に勤め、現在は国立国際美術館館長。神奈川県立近代美術館で3回開かれた田淵安一展の企画は山梨だったと思う。早川重章展もジャコメッティ展も。かつて読んだ山梨の『現代絵画入門』(中公新書)はきわめてすぐれた著書だった。それで期待して読み始めたが期待以上の内容だった。
 最初に「雨」という章があり、雨を巡って、牧谿、広重、須田国太郎、川合玉堂、福田平八郎、熊谷守一と言及され、海老原喜之助で締められる。アクロバティックでしかも絵画に沿った記述で優れた手品を見るようだ。
 次の「鴉」の章でも、山口薫、与謝蕪村ゴッホと書き継がれる。「見えないことへ」という章ではクレーと田淵安一が引かれている。ロスコの項で次のように書いている。

50代半ばになった1957年から、彼の色彩は、明るい色調のなかでさえ翳りを宿し重くなる。色を物質的実体そのものとして扱うロスコの絵には、そのころから青もまた、色彩の実体として姿を現わす。

 「見ることの特権」の章は中でも白眉だと言える。「見ることと描くことは別の経路を必要とする」。

現実の物質的存在を別の存在として絵画の平面に移し変えるためには、情報を選択し、ただひたすらに外界に向けられる眼とは異なる、絵画を組み立てるもうひとつの視覚を働かせねばならない。その選択の基準は、外界から受け取る視覚情報に左右されるよりも、何を描くかの画家の意図に支配される。線をもって描くか、色彩をもって描くか。

 そして3人の画家が呼び出される。セザンヌ、モネ、ジャコメッティだ。この項の追及は本当に見事なものだ。「セザンヌは世界の内部から発現する色彩を、モネは光と対象が衝突して現象する色彩を、ジャコメッティは対象の内部を透視して抜き出される線を手立てとして、眼差しの作用は、存在の内側へと貫かれ、また存在の瞬時の表われを逃さない」。
 「風景を開く3つの要素」では、レンブラント渡辺崋山から岸田劉生、ダール、長谷川等伯菱田春草モンドリアン、木下藤次郎、藤島武二、コンスタブル、クールベと書き継がれる。
 「線を引く」の項では、クレー、マティス、ベン・ニコルソン、ジャコメッティ、サイ・トゥンブリが引用されている。
 どの原稿もどこかに頼まれて書いたのではなく、自由に書き綴ったもので、本書が初出とのことだ。マスコミは今までどうしてこんな優れた書き手を放っておいたのだろう。

 

山梨俊夫『現代絵画入門』を読む、すばらしい!
https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20130110/1357744431

 

絵画逍遥

絵画逍遥

 

 

 

 

ギャラリーなつかの中嶋由絵・濱田富貴・吉永晴彦展を見る

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 東京京橋のギャラリーなつかで「View’s view 中嶋由絵・濱田富貴・吉永晴彦展」が開かれている(7月18日まで)。ここでは3人のうちの濱田富貴を紹介したい。濱田は1972年福岡県生まれ、2000年に武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻版画コースを修了している。その後、カナダのアルバータ大学やアメリカのユタ州立大学で学び、2009年には文化庁からフィンランドに派遣されている。さらに2018年はノルウェーの北極圏に滞在して制作している。
 今回濱田が用意した「制作こぼれ話」によると、半年前の健康診断で重度の鉄欠乏性貧血を指摘されたという。疲労しやすく集中力が続かないといったことに加えて、このコロナ禍で版画工房が閉鎖され、版画制作ができなくなってしまった。そんなこともあって、今回は墨のドローイング作品を展示している。

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 4点並んだうちの左端の1点が植物をモチーフにしているほかは、血液をモチーフにしているという。そのことについて、「制作こぼれ話」には次のように書かれている。

結果的に、今回の作品が少なからず血液に関係してくるのは至極当然の事だった。それだけ血液や貧血というものに対して注意を払う必要がある日々を過ごし、生活する上で大きな比重を占めていた。じわりと滲んで、ただとめどなく流れ出て、それを補うように生成された血液が身体中を巡って恢復していく。これらを繰り返す身体との対話が今展の制作において最も重要な軸となった。

 中でも左から2番目の大きな作品がとても良かった。濱田の制作意図とは別に、それは流れる雫のようでもあり、有機的な生命のようでもある。つまり必ずしも血液のイメージに回収されない。いずれにしろ美しい作品だ。
 濱田は現在は投薬治療によって血液数値は正常に近づいているという。画廊で会った限りでは、不調という感じは少しもなく、作品同様好調な印象だったが。
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View’s view 中嶋由絵・濱田富貴・吉永晴彦展
2020年6月29日(月)―7月18日(土)
11:00-18:30(土曜日17:00まで)日曜休廊
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ギャラリーなつか/Cross View Arts
東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1F
電話03-6265-1889
http://gnatsuka.com/