東京都現代美術館の豊嶋康子展を見る

 東京木場の東京都現代美術館で豊嶋康子展「発生法――天地左右の裏表」が開かれている(3月10日まで)。豊嶋康子は1967年埼玉県生まれ、1993年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了。1990年田村画廊で初個展、その後秋山画廊などで継続的に個展を開催。

 美術館のホームページから、

豊嶋康子(1967-)は、1990年より30年以上にわたって、私たちを取り巻くさまざまな制度や価値観、約束事に対して「私」の視点から独自の仕方で対峙し続けてきた作家です。物や道具の仕組み、学校教育、経済活動から日常の様々な行為まで、私たちに避けがたく内面化、自動化されてきた思考や行為の枠組みやルールを、自身の感じる違和感や関心を梃(てこ)として独自の仕方で読み替え、捉え返すことで、人の思考の型の形成、社会と自己の成り立ちの在り様を問うてきました。

豊嶋の制作は、1990年の《エンドレス・ソロバン》や《鉛筆》など、物の使用法や構造に従い、守りつつ攻めるといった方法で別様に展開、その機能を宙吊りにする作品に始まります。90年代後半からは、「表現」の領域を広く考察し、銀行での口座の開設や株式の購入、生命保険への加入といった社会・経済活動そのものを素材として用いて、特定のシステムの全体を「私」の一点から逆照射するような《口座開設》《ミニ投資》などを発表しました。2005年の《色調補正1》では、一般的に共有される色の体系を「私」の設定のもと、ひたすらに塗り替えることを試みています。作品それぞれの外観は幅広いものですが、それらはいずれも、いわゆる既成の仕組みや枠組み、順列などに対して、脈絡を守りつつ「私」を用いて別の見方を挿入し、本来の意味作用を逸脱させ、歪ませ、反転や空回りをさせることで、その構造と私たちの認識や体験の「発生」を捉えようとするものだといえるでしょう。〈ある順番に並べる〉(2014-2016)や〈隠蔽工作〉(2012)、一連の〈パネル〉(2013-2015)、〈地動説2020〉(2020)などは、こうした構造それ自体を抽象的に展開した作品と捉えることができそうです。順序や表/裏、支持体と図、天と地、作ると作らない…、こうした二項自体をずらし、重ね、また反転させ続け、複数の見方が現れる作品群が生み出されています。

 

名人戦

名人戦

パネル

パネル

パネル

定規

エンドレス・ソロバン

通知表

口座開設

表彰状

マークシート解答書

前例

前例


 試験のマークシートの解答用紙の本来の記入欄の外側を鉛筆で塗りつぶす。

 色鉛筆の中央付近を削って青赤2色の色鉛筆が芯で繋がっているような形態を表わす。

 際限なく長い「エンドレス・ソロバン」壁面に何メートルも続いている。

 株式投資のために証券会社に口座を作る

 「名人戦」と題された碁盤には白黒半分ずつの碁石が置かれている。

 プラスチックの定規をオーブントースターで加熱し歪めたもの。

 銀行窓口で口座を開設して1000円を入金し、届いたキャッシュカードで1000円を引き出し、別の銀行で口座を開設する。この手続きを繰り返す。

 小学校、中学校、高校の豊嶋の通知表を展示。

 豊嶋が小学校以来受け取った表彰状、卒業証書を額装して展示。

 受け取った郵便物の他人の筆跡によって書かれた豊嶋の名前の筆跡の収集。

 本来は鑑賞する部分ではないパネルの裏面に骨組みのパターンを増やし続ける。

 「隠蔽工作」キャンバスやパネルの裏面に何かを収納できる部分をつくる。

 「前例」日露戦争日中戦争・太平洋戦争の日本が占領した地域を描き、そこに渡航した日本の画家の名前と年と理由を書き出した。

 

 あまり期待していなかったが、解説とともに作品を見ていくと、これが意外と面白かった。

     ・

豊嶋康子展「発生法――天地左右の裏表」

2023年12月9日(土)―2024年3月10日(日)

     ・

東京都現代美術館

東京都江東区三好4-1-1

電話050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-230715/