猪熊弦一郎『マチスのみかた』を読む

 猪熊弦一郎マチスのみかた』(作品社)を読む。これがすばらしく大当たりの本だった。猪熊は戦後日本の最も重要な画家の一人。マチスに師事している。そんな猪熊が生前フランスでマチスに会い、絵を描くことについてアドバイスされたこと、マチスの生涯、マチスの作品の見方についてやさしく語っている。

 さらに図版が充実している。カラー図版が80ページ以上もあり、マチス画集と言ってもいいくらいだ。そのほか白黒図版もある。

 マチスは油絵を描き始める前に何枚ものデッサンを描くという。

「私は油にかかるまでに幾枚デッサンを描くか知れない。そのものを描いて描いて描きぬき、すっかり自分のものになってしまってからでなければ私は油にかからない。デッサンはその形を通しそのものの本質にまで」喰い入ってつかみ、加うるに最上の表現方法を獲得したものでなければならない」と。(中略)デッサンは考えるより先描けである。

 

 絵に額縁はいらないと言う。

パリで先生にお会いしてわたくしの絵を見ていただいたとき、まず言われたことは、「額縁に入って、よく見えるような絵はだめなのだ。絵は額縁なしでよく見えなければならないのだ。絵にデコラシオン(装飾)をつけて、その絵が一緒によく見えるようにすることは間違っている。額縁をつけることは、画商やコレクターがやることなのだ」ということでした。日本の現代の絵描きはなんですかと言いたくなります。(中略)

 「上等な額縁というのは、コレクターがつけるものなのです。絵かきは単に絵を保護するプロテクターぐらいなものをつけるならよいでしょう」と、マチスはそんなことをわたしに言ってくれました。