東京木場公園の東京都現代美術館で常設展「MOTコレクション」が開かれている(11月5日まで)。そこでは「特集展示 横尾忠則――水のように」が特集されている。美術館のホームページでは、「横尾忠則の特集展示では、絵画とグラフィック作品約70点をご紹介します。「水」の表現に着目しながら、「水のように」様々にかたちを変えていく横尾の軌跡をたどります」とある。70点は個展の規模と言える。
横尾はポスターなどのイラストレーターとして出発した。唐十郎の赤テントなどと協力して、ポスターに日本的な絵柄を取り入れた。それは誰もしなかったことで、たちまち注目を浴び、売れっ子イラストレーターになった。その後ニューヨーク近代美術館のピカソ展を見てイラストレーターから画家に転身する。
横尾はイラストレーターとして人気があったため、またその画家としての作風もイラストレーター時代から大きく変わったものでもなかったため、人気は衰えず画家として成功する。
横尾は夢の世界を描きシュールレアリズムに接近したり、滝が気に入って滝の絵ばかり描いたり、三叉路に凝って夜の三叉路をストロボを光らせて撮影し、それを絵画に起こしたりしている。しかし、実は私は横尾をあまり評価することができない。横尾について以前書いたことを再録する。
横尾は絵は下手だし、ある意味下品だし、作品のテーマがマンネリでもある。横尾はライプチヒのネオ・ラオホと共通する傾向を示している。ネオ・ラオホは統一前の東ドイツの社会主義リアリズムに抗して作品を制作してきた。社会主義リアリズムの制約のなかでそれを踏み越える作品を工夫しなければならなかった。それが独特のシュールっぽい作品に結実している。横尾の作品も写実絵画を踏み越えている。一見ネオ・ラオホと共通すると思わせる点だ。
しかし、ネオ・ラオホにあった社会主義リアリズムに飽き足らないで新しい表現を目指した動機にあたるものは横尾にとって何だろう。切実なそれが感じられなかった。横尾は絵画を量産している。だが、滝の絵でも、三叉路でも、テーマを得るために選んでいるのではないか。過去の名画からの引用が多いのも、本当に切実なテーマが横尾にないためではないのか。
これは2年前に書いた文章だが、基本的にいまでも変更しようとは思わない。ただ、70点が並んでいる今回の展示は、横尾のことを知ろうとするには良い機会だろう。
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「MOTコレクション」
2023年7月15日(土)―11月5日(日)
10:00-18:00(原則月曜日休館)
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東京都江東区三好4-1-1
電話050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-230715/